[四隅]
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だからそのまま時計回りに回転は続き、そのあと一度もポケッ
トは来なかった。
どうして5回転目のポケットに人がいたのだろうか。
「いるはずのない5人目」という単語が頭をよぎる。
あの時みかっちさんだと思って遠慮がちに触った人影は、別の
なにかだったのか。
「ローシュタインの回廊ともいう」
京介さんがふいに口を開いた。
「昨日やったあの遊びは、黒魔術では立派な降霊術の一種だ。
 アレンジは加えてあるけど、いるはずのない5人目を呼び出
 す儀式なんだ」
おいおい。降霊術って・・・・・・
「でもまあ、そう簡単に降霊術なんか成功するものじゃない」
京介さんはあくびをかみ殺しながらそう言う。
その言葉と、昨日懐中電灯をつけたあとの妙に白けた雰囲気を
思い出し、俺は一つの回答へ至った。
「みかっちさんが犯人なわけですね」
つまり、みかっちさんは5回転目のスタートをして時計回りに
CoCoさんにタッチしたあと、その場に留まらずにスタート地点
まで壁伝いにもどったのだ。そこへ俺がやってきて、タッチする。
みかっちさんはその後二人分時計回りに移動してCoCoさんにタ
ッチ。そしてまた一人分戻って俺を待つ。
これを繰り返すことで、みかっちさん以外の誰にもポケットが
やってこない。
延々と時計回りが続いてしまうのだ。
「キャー!」という悲鳴でもあがらない限り。

せっかくのイタズラなのに、いつまでも誰もおかしいことに気
づかないので、自演をしたわけだ。
しかしCoCoさんも京介さんも、昨日のあの感じではどうやらみ
かっちさんのイタズラには気がついていたようだ。
俺だけが気になって変な夢まで見てしまった。
情けない。
朝飯どきになって、みかっちさんが目を覚ました後、「ひどい
ですよ」と言うと「えー、わたしそんなことしないって」と白
を切った。
「このロッジに出るっていう、お化けが混ざったんじゃない?」
そんなことを笑いながら言うので、そういうことにしておいて
あげた。

後日、CoCoさんの彼氏にこの出来事を話した。
俺のオカルト道の師匠でもある変人だ。
「で、そのあと京介さんが不思議なことを言うんですよ。5人
 目は現れたんじゃなくて、消えたのかも知れないって」
あのゲームを終えた時には、4人しかいない。4人で始めて5人
に増えてまた4人にもどったのではなく、最初から5人で始め
て、終えた瞬間に4人になったのではないか、と言うのだ。
しかし俺たちは言うまでもなく最初から4人だった。なにをい
まさらという感じだが、京介さんはこう言うのだ。よく聞くだ
ろう、神隠しってやつには最初からいなかったことになるパタ
ーンがある、と。

つまり、消えてしまった人間に関する記憶が周囲の人間からも
消えてしまい、矛盾が無いよう過去が上手い具合に改竄されて
しまうという、オカルト界では珍しくない逸話だ。
しかしいくらなんでも、5人目のメンバーがいたなんて現実味
が無さ過ぎる。その人が消えて、何事もなく生活できるなんて
ありえないと思う。
しかし師匠はその話を聞くと、感心したように唸った。
「あのオトコオンナがそう言ったのか。面白い発想だなあ。
 その山岳部の学生の逸話は、日本では四隅の怪とかお部屋様
 とかいう名前で古くから伝わる遊びで、いるはずのない5人
 目の存在を怖がろうという趣向だ。それが実は5人目を出現
 させるんじゃなく、5人目を消滅させる神隠しの儀式だった
 ってわけか」
師匠は面白そうに頷いている。
「でも、過去の改竄なんていう現象があるとしても、初めから
 5人いたらそもそも何も面白くないこんなゲームをしますかね」
「それがそうでもない。山岳部の学生は、一晩中起きているた
 めにやっただけで、むしろ5人で始める方が自然だ。それから
 ローシュタインの回廊ってやつは、もともと5人で始めるんだ」
5人で始めて、途中で一人が誰にも気づかれないように抜ける。
抜けた時点で回転が止まるはずが、なぜか延々と続いてしまう
という怪異だという。
「じゃあ自分たちも、5人で始めたんですかね。それだと途中
 で一度逆回転したのはおかしいですよ」

続く