[血(後編)]
前頁
「昔からなんだ。あいつが父親をパパなんて呼ぶから、私
はオヤジと呼ぶようになった。あいつがコカコーラを飲
むから私はペプシ。わかってるんだ。そんな表面的な抵
抗、意味ないと思っていても自然と体があいつと違う行
動をとる。違うって、ホントに姉妹なんていうオチはない。
とにかく嫌なんだよ。なんていうか魂のレベルで」
高校卒業するころ髪を切ったのも、あいつが伸ばしはじめ
たからだ。
ショートカットの頭に手のひらを乗せて言った。
「今でもわかる」
なにかをしようとしていても、その先にあいつがいる時は、
わかるんだ。
離れていても同じ場所が痛むという双子の不思議な感覚とは、
逆の力みたいだ。
でも逆ってことは、結局同じってことだろう。
京介さんは独り言のように呟く。
「変な顔で見るな。おまえだってそうだろう」
指をさされた。
「最近、態度が横柄になってきたと思ってたら、そういう
ことか」
一人で納得している。
どういうことだろう。
「おまえ、いつから俺なんて言うようになったんだ」
ドクン、と心臓が大きな音を立てた気がした。
「あの変態が、僕なんて言い出したからだろう」
そうだ。
自分では気づいていなかったけれど。
そうなのかも知れない。
「おまえ、あの変態からは離れた方がいいんじゃないか」
嫌な汗が出る。
じっと黙って俺の顔を見ている。
「ま、いいけど。用がないならもう帰れ。今から風呂に入
るんだ」
俺はなんとも言えない気分で、足取りも重く玄関に向かお
うとした。
ふと思いついて、気になっていたことを口にする。
「どうして『京介』なんていうハンドルネームなんですか」
聞くまでもないことかと思っていた。
たぶん全然ベクトルが違う名前にはできないのだろう。京
子と京介。正反対で、同じもの。それを魂が選択してしま
うのだ。
ところが京介さんは顔の表情をひきつらせて、ボソボソと
言った。
「ファンなんだ」
信じられないことに、それは照れている顔らしい。
え? と聞き返すと、
「BOφWYの、ファンなんだ」
俺は思わず吹いた。いや、なにもおかしくはない。一番自
然なハンドルネームの付け方だ。
けれど、京介さんは顔をひきつらせたまま付け加える。
「B'zも好きなんだがな。『稲葉』にしなかったのは・・・・・・」
やっぱりノー・フェイトなのかも知れない。
そう呟き、そして帰れと俺に手のひらを振るのだった。