[輪廻]
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「どなたですかぁ?」
 ひょうひょうとしている。しかし彼の目を見たとたん、背筋に激しい悪寒が走った。
 常人ではない!
 ひどい三白眼は、血の通った人とは思えないほど鋭く冷たい。
 私は息を呑んだ。
 わずかな時間をおいて、ちがう刑事が男に尋ねる。
「今日、君はどこにいっていたのかなぁ?」
「えーと、秋葉原」
「そう。今、家の中には誰がいるの?・・ふんふん、ご両親と妹さんね。すまないが、
ちょっと・・・・」
 男の肩に手をかけた瞬間、そばにいた二人の刑事が彼の両腕を素早く押さえた。
男はひと言も抵抗らしき言葉を発せず、されるがままになっている。
 刑事たちは男を車に押し込むと、静かにドアを閉め、尋問を開始した。
 しばらくして、応援の車両が続々と到着。鑑識も含め、その数は二十人ほどに膨れ上がる。
 捜査員に抱きかかえられるようにして、男の妹が出てくる。端正な顔つきだが、
やはり非人間的な眼つき。髪は異様なほど長く、ふくらはぎに届いている。

それに彼女の青白い顔がつくと、円山応挙が描いた幽霊画そのものだ。
 問題のトランクが開けられると、えび茶色の布団袋が現われた。ついさっき
殺されたばかりの死体がはいっている。トランク内はさほど汚れていない。
自分の部屋に血液を出し尽くしたのか。

ひもを解くと・・・・。

ものすごい形相の若い女の顔が飛び出した!
 ハンマーで何度も叩き割られた額やほお。そのとき飛び出たのか、目の玉が口の中に
押し込まれている。
 脳みそが鼻から噴出し、頭蓋骨がささくれのようになって、あちこちから突き出ている。
それにソバージュの髪がからまる。
 この女はほんの数時間まえまで生きていた。信じられないという気持ちと恐怖が、
同時に私を襲った。
 犯人の母親が、窓から外を眺めている。無表情だ。父親は、玄関にしゃがみ込んで
泣き叫んでいる。まともなのは父親だけだと、H刑事が舌打ちした。

続く