[少年と祖母]

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しばらくして祖母が迎えに来てくれた。
今思うと祖母が迎えに来てくれたのはその時が最初で最後だった。
何故かその時、祖母の顔を見た瞬間の安堵感を覚えている。
そして祖母は墓の方を物悲しい顔でしばらく見ていた後、「○○ちゃん(俺)
何も心配せんでよか・・・ばあちゃんがちゃんとしてやっけんね」と
俺の顔をまじまじと見ながら言った。
二人で手を繋いで家に帰った。

途中、駄菓子屋の前を通りかかった時、俺は
無性に寄り道したかったが、「今日はあかん!今日はあかん!早よ帰らんばあかん!」
と祖母にたしなめられた。

祖母が死んだのはその日の深夜だった。
何故か俺には祖母の死が記憶としてハッキリ残っていない。葬儀で親戚やら
知人やらが家に大挙して慌しかったのは覚えているが、祖母が死んだ悲しさ
が今でも全く記憶から消えている。
翌年、俺は小学生になった。小学校も幼稚園と道を挟んで隣接していたが、
俺はその後、一切近寄らなかった。正確に言えば近寄れなかった。
意識すると頭の中に苔にまみれたあの小さな墓が浮かからだ。

続く