[犬の散歩をするおじさん]

前ページ

「ガタッ!」と、私達の後ろで、何かが床に落ちる音がしました。
その瞬間、
「うぎゃあぁぁああぁっぅ!!!」
3人のうち、YとMの二人が、絶叫をあげながら
物置のドアを蹴破り、信じられないスピードで逃げていきました。
そのとき、私の精神も危なかったのかもしれません。
腰が抜けている私は
残ったA君の手を必死に掴み、噛み付いていたのですから。
A君は失神していました。

開けっ放しのドアから、なんとなく生臭い空気が流れてきます。
ドアがあろうがなかろうが
「それ」の通行にはまったく支障がないだろうことは想像がつきます。
もう、すぐそばまでやって来ているのです。
「見たくないっ!」
動くことのできない私は、ほんの少しでも抵抗をしようと
ドアから顔をそらし、A君の手に噛み付きながら
放り出された懐中電灯の明かりの輪をみつめて、必死に耐えていました。

「ジャラッ・・・チャッ・・・ジャラッ・・・」
「それ」は、私がへたりこんでいる目の前を通過していきました。
懐中電灯の明かりの輪の中。
床から1メートルほど上空を素足で歩いている足がありました。
空気に色をつけるとこんな感じ?と思えるほど
その素足は、あやふやな半透明の色をしていました。
そして、その両足には「あしかせ」がはめられていました。

どのくらいそこにへたりこんでいたのか記憶がありません。
気がつくと、両親が私の顔をのぞきこんで、
名前を呼びながら、肩をゆすっていました。
YとMの叫び声を聞いて、飛んできたのだそうです。
母は私の肩を抱き、居間に座らせコーヒーをいれてくれました。
父はA君を抱きかかえ、お風呂場に連れて行きました。(失禁してたらしい。)
A君を家に送り届けてから、
すこし落ち着きを取り戻した私に、両親が打ち明け話をしてくれました。
「あれを見ないようにと思って、あんたたちを早く寝かせてたんだよ」と。
「犬の散歩のおじさん」と、勝手に思い込んでいたのも
どうやら両親の「すりこみ」のなせる技だったらしい・・・・。

続く