[失踪]
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百話物語りもしたし、肝試しもしまくった。
バチ当たりなこともいっぱいしたし、降霊実験までした。
いいかげん取り憑かれてもおかしくない。
でも多分師匠の発狂の理由は違う。

食事をした3日後に師匠は失踪した。
探すなという置手紙があったので、動けなかった。
師匠の家庭は複雑だったらしく、大学から連絡がいって叔母
とかいう人がアパートを整理しに来た。
すごい感じ悪いババアで、親友だったと言ってもすぐ追い出された。
師匠の失踪前の様子くらい聞くだろうに。
結局それっきり。
しかし俺なりに思うところがある。

俺が大学に入った頃、まことしやかに流れていた噂。
「あいつは人殺してる」
冗談めかして先輩たちが言っていたが、あれは多分真実だ。

師匠はよく酔うと言っていたことがある。
「死体をどこに埋めるか。それがすべてだ」
この手のジョークは突っ込まないという暗黙のルールがあったが
そんな話をするときの目がやたら怖かった。
そして今にして思い、ぞっとするのだが
師匠の車でめぐった数々の心霊スポット。
中でもある山(皆殺しの家という名所)に行ったときこんなこと
を言っていた。
「不特定多数の人間が深夜、人を忍んで行動する。
 そして怪奇な噂。
 怨恨でなければ、個人は特定できない」

聞いた時はなにをいっているのか分らなかったが、多分
師匠は心霊スポットを巡りながら埋める場所を探していた
のではないだろうか。
俺がなによりぞっとするのは、俺が助手席に乗っているとき
あの車のトランクのなかにそれがあったなら・・・・・・


今思うとあの人についてはわからないことだらけだ。
ただ「見える」人間でも心の中に巣食う闇には勝てなかった。
性格が変わった、あのそうめん事件のころから師匠は
徐々に狂いはじめていたのではないだろうか。

師匠の忘れられない言葉がある。
俺がはじめて本格的な心霊スポットに連れて行かれ、ビビリ
きっているとき師匠がこういった。
「こんな暗闇のどこが怖いんだ。目をつぶってみろ。
 それがこの世で最も深い闇だ」


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