[アパート]
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それでも1ヶ月くらいは我慢していたんだけど、
気にしないようにすればするほど気になってしまうんですよね。
さらに良く聞いてみると話し声の人数が以前よりも増えているようなので、
ひょっとしたら不法滞在の外国人が隣の部屋に集まっているのかなと
思ったわけです。

そこで翌日の朝、職場からまた電話をかけたんです。
例の女性社長が対応に出てくれたんだけど、
「あぁ、また駄目でしたか…。それではこの後もう一度話をしてみますので…。」
ということだったので、「なんだか以前よりも人数が増えてるようなんだけど、
ひょっとして不法滞在の外国人が集まってるんじゃないですか?」と伝えて、
調べてもらうように話してから電話を切ったんです。

この日はたまたま彼女が体調不良で仕事を休み、
アパートで寝込んでいたんだけど、
午後3時頃になって唐突に隣の部屋の鍵をガチャっと開ける音がした後、
例の女性社長の声、それから少し小さめの声だったものの、
辛うじて男性とわかる声が聞こえたらしいんです。
何せ木造建築の家なので声や物音がある程度筒抜けになるんですよね。
彼女も最初から耳を澄ませていたわけではないようなんだけど、
インターフォンを押したり、ノックする音がまったく聞こえず、
いきなり外から女性社長を含めた二人の人間が隣の部屋へ入って来たようなので、
「あれ?」と気になったため、壁に耳を付けてその後の会話をついつい、
盗み聞きをしてしまったとのことでした。

社長:先日やっていただいた方法では、どうも1週間しか持たなかったようです。
男性:う〜ん、困ったな。これほどしぶとく出てこられてしまうとね…。
社長:隣の方も不審に思われてるようなので、なんとかなりませんかね。
男性:でもこれ以上貼ってもあまり効果がねぇ。
社長:これって隣の住人とかに影響が出ないんですかね?
   以前よりも増えてるみたいなんですが。
男性:多分大丈夫だと思いますよ。こちら側にはガッチリ貼ってありますから。
   だけど完璧かどうかと言われるとね…。何せ相手が相手だからね…。

そこまで聞いて「効果?」「貼る?」という会話や、
「相手が相手」というにフレーズに嫌な予感がしたそうですが、
この後、読経が始まってしまって確信したそうです。
隣の部屋はヤバイということに…。

彼女から即効で電話がかかってきて、
いきなり「荷物をまとめているから」と切羽詰った声で伝えられました。
あまりにおかしな雰囲気だったものの理由を話してくれないので、
心配になり会社を早退して帰宅。
事情を聞いて死ぬほど恐ろしくなり、
とりあえず一旦双方の自宅に重要な荷物を運んでから、
その日の夜はそれぞれの実家に退避。

引越し屋に依頼して、翌日完全に引っ越しましたよ。
結局なんだったのかよくわからなかったんだけど、
隣の部屋のどこかから、何か「この世の者ならざる者」が深夜になると
溢れ出てきている場所だったようです。


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