[人食い熊]
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【遅すぎた援軍】

明景邸に帰路をとっていた男たちは、明景邸から逃げ出した
ヤヨたちと合流。明景邸で今起こっている惨状を認識する。
さらに間一髪で逃げ延びた要吉も保護し明景邸を包囲する。
だが明景邸は暗闇で突入はためらわれ、村人たちはタケのうめき声と
タケの肉を咀嚼する音を聞かされることになる。
たまらず男の一人が空砲を放つと、熊は家から出てきた。

だがその男が邪魔で村人は熊に発砲できず、熊はそのまま逃げてしまった。
たいまつを頼りに明景邸に入った村人たちは地獄を目にすることになった。

子供たちの無残な死体、タケもお腹の胎児を引きずり
出されており助からなかった。
だがタケの長男力蔵と長女ヒサノは惨劇の中でも声を出さずに
じっとしていたので熊の注意を引かず助かった。

・・・結果としてわずか二日間のうちに胎児を含めた
7人の人命が一匹の熊に奪われてしまった。
また、頭を噛みつかれた梅吉もその後遺症に苦しんだ挙句、
二年後に死亡することになる。

負傷者はさらに離れた辻邸に移され、男たちは分教場に移動した。
そして村に戻ってきて惨状を聞いた明景安太郎は熊殺しの専門家
の家に足を運び、今、村を襲っている熊の話をした。
話を聞いた熊殺しの山本兵吉はその熊の手口から、
そいつはかつて近辺で女性3名を殺害し「袈裟懸け」と
あだ名された人食い熊かもしれないと話した。

【12月11日、袈裟懸け許すまじ】
自分たちの留守の間に妻や子供たちを殺された明景安太郎と
斉藤石五郎の怒りと哀しみは凄まじく自らの手による復讐を決意。
彼らは「袈裟懸け」討伐隊を組織して明景邸の屋根裏で
待ち伏せした。だが、この日、結局「袈裟懸け」は現れなかった。

【12月12日、待ち伏せ】
警察から派遣された新たな増援が明景安太郎らと合流。
「袈裟懸け」を逃がさないために村の各所を固めることになった。
また、熊をおびきよせて復讐を果たすために、明景安太郎らは、
自分の家族の遺体をおとりに使うことを決意、熊殺しの山本兵吉
をはじめとする有志6人が遺体の周囲に隠れ待ち伏せした。
狙い通り「袈裟懸け」は現れたが、殺気に感づいたのか
遺体に近寄ろうとせず、また逃げられてしまう。

【12月13日、袈裟懸け、暴走する】
増援合流の結果、手持ちの銃は合計で60丁にもなり、
袈裟懸けの運命もこれまでかと思えた。
一方、「袈裟懸け」は空腹と傷の痛みからかこれまでの
慎重さを失っており、この日は無人の民家を狙って次々と
押し入っては部屋を荒らしまわっていた。
被害にあった家は8軒。女性の枕に異常に執着する痕跡が
あったため、熊殺しの兵吉は、標的が非力な女性を狙う
「袈裟懸け」である確信を強めた。

そして橋を固めていた警官隊のところに「袈裟懸け」が出現。
しかしながら時刻は夕闇で確認しにくく、警官が誤射を防ぐために
言葉で警告した後、発砲。
だが、狙いは外れ「袈裟懸け」をまたも逃がすことになる。

【12月14日、悪夢の終わり】
「袈裟懸け」の血痕と足跡を警官隊が発見、追跡に入る。
熊殺しの兵吉は、利口な「袈裟懸け」にこの動きを気取られ、
再び逃げられてしまうことを恐れていたため、単独で追跡を開始した。

そして兵吉は「袈裟懸け」をついに捕捉する。「袈裟懸け」は木につかまり
体を休めていた。意識は警官隊に向けられ兵吉には気づいていなかった。
すかさず兵吉が発砲。一発目は「袈裟懸け」の心臓を、二発目は頭部を
撃ち抜き、「袈裟懸け」は即死した。

銃声をきいた村人たちはそこに殺到し、村を恐怖のどん底に
叩き込んだ悪魔の死体を見つけた。袈裟懸けの体重は380キロ、
身長は2,7メートルもあった。胃袋からは犠牲者の残留物が確認され
人々は悲しみを新たにした。この悲惨な事件の後、六線沢の村人はひとり
またひとりと去り、最終的に集落は無人の地に帰した。


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Part211
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