[赤い仏像]
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『あ、それと太郎ですが…』

『なぁに気にする事は無いよ(笑)あれはこういう時の為に作ったんじゃからひゃひゃひゃ(笑)』

『作った?』

『ほうじゃほうじゃ(笑)毎年決まった時期に線香の灰を混ぜた酒を飲ませてな』
ニヤリと笑った。

『こうなると予見してたんですか?』

『念のためじゃよ。念のため身代わりくらいは立てとかんとな』

『じゃあ、お婆さんは俺の命の恩人ですね。適わないなぁ(笑)』

『また飯でも食いに来いひゃひゃひゃ(笑)』

『良いですね(笑)また今度ご馳走になります』
『あ、そういう話なら昨日の晩御飯は何だったんです?』

『昨日か、昨日は山菜ご飯とサバの煮付けに里芋のふかし、ほうれん草のお浸し…』
そこまで言うとばつが悪そうにこちらを見た。
『また、ご馳走になる日を楽しみにしてますよ』
俺は笑った。
『ひゃひゃひゃ(笑)こりゃ一本取られたわい』
痴呆の婆さんも笑った。
何の為かは知らないが面倒な事をしている婆さんだ(笑)

庭に出ると山の駐車場に置き去りな筈の俺の車が在った。
『あぁ、車はこっちに持ってきておいた。中にテントやら何やらほっぽっとったもんも入っとる』
助かった。
正直、とてもあの場所へ戻る気にはなれなかったところだ。

『重ね重ね有難うございます』

俺の肩を叩き住職は笑った。
『なぁに気にすんな(笑)お前さんが来てからというもの、こっちも面白かったよ』
『いい酒の肴も出来たしな(笑)』
生臭坊主は笑った。

見送る三人に会釈すると俺は婆さんの家を後にした。

宿に着き。
帰り支度を整え、一人考えていた。
婆さんの話の細かい部分は割愛したが、その話やこの村に来てから判った事をメモに記していた。
以下はその内容である。

赤い仏像
紅仏様(ベニブッサァ・ベニブツサマ)
血仏(チボトケ)

獣非(ヒトアラズ)

獅子囲み=死屍囲み(シシガコミ)

逃げる途中で何かに躓く(フラッシュバック?)
躓いたのは恐らくシシガコミの積み石

【赤い仏像】
昔山の集落で用いられた祭具
奉公に出て孕んで帰って来た娘の赤子の生き血に浸して作られた
それ以降も集落の人々の血を吸い続ける
色はドス黒い
余所者(集落以外の人間)を呪い殺す為の呪具
血の涙を流す
血の涙の跡から来たと思われるが、恐らく血に浸した仏像を取り出し、立てて乾かす際に、他の血が乾き最後に目尻に溜まった血が流れた、その跡だろう

【ヒトアラズ】
昔おぞましい牛の奇形が生まれた(人【赤ん坊】に近い形をしていた)
一節にはアルビノの人間だったというのも有る
牛の子として殺したんじゃないか?と
それを殺し使い魔化したモノ
鳴き声は猫が喧嘩してる時の様な赤ん坊のような鳴き声
風貌は極めて凶悪

【シシガコミ】
獅子囲み=獣の王(この集落ではヒトアラズ)を祀る祠
死屍囲み=同上。ヒトアラズを埋め、様々な七匹の獣の生き血を飲ませた墓場(ベニブツサマを作る為に犠牲にした人身御供もここに埋められた。その際に仏像を浸した血の余りも棄てた)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
以上

『“面白いもの”か』
俺は一人呟く。
ヒトアラズから逃げたあの時、俺はあの場所を知っていた。

続く