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だがそこからが大変だった。
人を殺した、その感情がいつも心の片隅にあった。
兄を亡くした同級生の姿を見るたびに心が痛んだ。
辛かった。
自殺も考えた。全部話そうかとも思った。
だができなかった。いえなかった。
あの事件後、友人とは疎遠になった。一緒だと思い出す、当然か。
俺は受験勉強に励んだ。いや、受験勉強に逃げていただけ、だろう。
そして、元の成績からはとてもいけなかった高校に受かることができた。

すべてを忘れたかった。
新しい学生生活で、すべてがリセットされ、楽しく過ごせる。
そう思った。
入学式で彼女がいた。俺たちが殺した兄をもつ、同級生。
しかも、同じクラス。

逃げ切れない。
心が折れかけた。折れていたかもしれない。

同じ中学出身で同じ高校で同じクラス、話さない理由はない。
これまでは避けてきたが、自然に話すことになってしまった。
というより家の方向も同じせいか結構仲良くなってしまった。

そんなある日彼女は言った。
「瀧本君は知ってると思うけど私のお兄ちゃん、死んじゃったの」
ああ、知ってる。殺ったのは俺だ。
「中学では結構噂になったもんね、でねここからは知らないと思うんだけど」
「お兄ちゃん、幽霊屋敷で落とし穴に落ちて死んだんだって・・・」
知ってるよ。犯人も。
「落とし穴の中に包丁がいっぱい入ってたんだ・・・」
「でもね、犯人捕まってないんだよね・・・」

静かに聞いていたがそのとき、つい言ってしまった。
「えっ!包丁!?」
彼女の顔が曇った。
沈黙が続く・・・彼女は
「用事があるから帰るね」
と言い帰ってしまった。

それから、彼女は一度も俺に話かけてこない。

後日、別の友人も彼女は兄の話をされたらしい。
彼女は最後に
「廃屋の隣のおばさんが落とし穴を掘る二人の学生」を目撃していたことを言っていたらしい。

ごめん、吉倉、墓まで持って行けなかった。

作り話です。


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