[従兄弟]

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「いや、その時さ。顔がめり込むような感覚がしたんだよ。そのまま顔に埋まって歯に何か当たるような感覚までしたんだ。。でも、全然怖くないんだよな。何かそういうの観ても、普通の女とか子供とかの姿だと別に怖いとは思わないんだよね。」そんな事を言う。

「本当かよ。。十分過ぎる体験だと想うぞそれ」言ってやると。
「そうかな?いや、実はさ、それだけじゃないんだよね。今住んでる所ちょっとおかしいような気がするんだよ」

彼が住んでいるマンションは一つの部屋が二つの階に跨っているタイプのモノだという。部屋の中に階段があってて上の階行き来が出来るようになっているらしいのだ。

その階段の下にはちょっとしたスペースが出来ている。そのスペースの中の奥の壁にダンボールが張ってあるというのだ。

どうも穴が開いているらしい。見栄えが悪いので大家がダンボールで塞いだという話なのだという。
「でもさ、どう考えてもダンボール張ってあった方が見栄え悪いよな。それに俺達が入る前リフォームしたらしいんだよ。入る時説明で100万かけてリフォームしましたとか言われたんだよ。何でそこだけダンボール張ったままなんだろうと思ってさ・・」確かに妙な話だ。

しかし、妙なそのはれだけじゃないという。

夜、居間でテレビなどを観ていると隣の部屋から足音が聞こえるらしいのだ。どうも子供がタッタカタッタカと軽やかに部屋中や階段を走りまっているように思える・・変だと思い覗いてみるとだれもいない。。そんな事が日常茶飯事だという。

「後さ、どうも彼女も何か感じてるらしいんだよね」ともいう。どういう事かというと、彼らは二階を寝室にしているらしい。構造上そこは隣の住人の部屋とは隣接していない。

ところが、夜ベッドで寝ていると壁の向こうを指で引っかくような音がする、更にタン、タ、タ、タタンタンと指で壁を叩くような音もするという。彼女は滅茶苦茶怖がりなので、気にしないように言っているが腑に落ちないという。

「後さ、これは関係ないと思うんだけど。一階に掲示板があるんだよ。住人へのお知らせみたいのが張り出されたりしてるんだけどさ、最近そこに(夜中に上の階の人の走り回る音がうるさくて眠れません。そのせいで病気になりました)って貼り紙が張ってあるんだよ」
誰が書いたかは無記名な為分からないという。

「でもさ、普通夜中に、そんな走り回る奴なんていないしさ、病気になりましたって言い回しもおかしいじゃん。そんなに酷いなら直接抗議するのが普通だろうし気味悪いって言えば気味悪いよ」

あとは部屋の中にあるサメやイルカなどの置物が触れてないのに動いていたりという事もあるらしい。

「そんだけの事があって、怖くないのか?」俺は聞いた。
すると「だって、何かこれといってあった訳じゃないし。気のせいかなと、あまり深く考えてなかったんだよ。でも、おかしいよな・・」

奴は、そう言ったあと「あのさ、一ぺん来てみなよ。どんな感じか分かるから」こう持ちかけてきた。

「そうだな、客観的に誰か見てみた方が良いかもしれないな。来月にでも行くよ」と答えた。

「じゃ、そういう事でとりあえず寝るとするか」大分夜も更けてきたし眠くなってきた。
しかし奴はこういった。
「え?稲川淳二のDVDまだ一本残ってるじゃん。観ようよ」あんだけの話して、まだそんな事言うのかこいつは!

「嫌だよ、俺は眠いし疲れたんだ。寝るよ」

「いいじゃん。勿体ないしさ。俺まだ眠くないもん。観ようよ」とかいうのですよ、この大馬鹿者は。

まりにうるさいのでDVDは再生した。ただ、俺はほぼ夢うつつだった。
段々腹が立ってきた。眠いのに邪魔しや段々腹が立ってきた。眠いのに邪魔しやがって。。

「お前もな、危機感無さ過ぎだよ。ああいうのが出た場合慌てちゃいけない。心を落ち着けなきゃいけないっていうのは間違いじゃない。

でもお前は端からおかしい事だと思ってないんだろ。それは良くないんだ。いわば半分憑かれてるからだよ。だから怖いと思わないだよ。でも、考えてみろ。自分が不安定になって激しい鬱が来たときとそういうのが見えだした時と比例してる筈だ。

精神的にヤバくなってる所をつけこまれるんだよ。ヤバくなってるって自覚を持たないと又危ないぞ」一気にまくし立ててやった。

続く