[足音]
中学まで京都の古い家に住んでいました。 
うちって結構な名家だったらしいんです。 
        
ある夜、眠れずにウトウトしていると 
廊下を誰かが歩く音が聞こえました。 
足音は私の部屋の前で止まりました。 
誰だろう、と思っていると 
不思議なことに気づきました。 
家族と同居されている方なら 
同意いただけると思いますが 
けっこう足音で家族の誰か分かりますよね。 
しかしその足音は初めて聞く足音だったのです。 
私は怖くなり布団をかぶって寝てしまいました。 
        
翌日、兄にこの事を話すと言いました。 
「お前もかー? でも絶対ドアを開けるなよ」 
それでも気になって聞いていくと 
「絶対開けるな。それと誰にも言うな」 
私はまた後で聞けばいいと思いました。 
しかし兄はその夜、バイクの事故で亡くなったのです。 
        
通夜のあと、妹が話しました。 
実は妹も足音を聞いていたらしいのです。 
私が足音を聞いたあの夜、兄がドアを開ける音がした。 
足音が私の部屋の前に止まっているときに 
兄はドアを開けた、と言うのです。 
その後、兄は亡くなりました。 
兄が何を見たのか。いまでも謎です。 
母に訊ねると、あの家では 
祖父も祖母も夜の12時を過ぎると 
部屋を出なかったらしいです。