[追い越すと]
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向こうは若い女、こちらは男。俺は彼女を追い越してから全く速度を緩めていないし
営業で歩き慣れている俺は歩く速度には自信がある。
なのに彼女の足音は一向に遠ざからないのだ、いや、間違いなく近づいている。
俺は全身の毛穴が開いてしまったかの様な恐怖に耐えながらいくつかの事を理解した。


自分の背後に迫る「それ」はとてつもなく危険な存在だという事

そして「それ」は常識では考えられない速度で俺に追いつきつつある事

絶対に背後を振り返ってはいけない事


俺は全精力を傾けて先を急いだ。もう自分が歩いているのか走っているのかさえ
よく分からない。ノドがカラカラになり、背筋を嫌な感じがつたう。

あと80m程先だろうか、遊歩道の終わりが近づいている。俺がこの遊歩道の終わり、
街道と合流する地点に到達できさえすれば、俺は「それ」から逃れられるだろう。
理由は分からないが俺はそう確信していた。

しかし、背後の足音はもう俺の背後すぐのところまで迫っている。もう考えたくも
ないが、おそらく触れるか触れないかのところまで「それ」は迫っている。

かすかに、女の話す声が聞こえる。小さな声でボソボソと喋っている様だ。
この会話から何か重要な事を聞き取る事ができればきっと俺は助かる・・・はずだ。。

「ああ、大丈夫、今日は大丈夫」
「だって」


老婆のうめく様な声に変わる。

「 メ ノ マ エ ニ、 イ ル カ ラ !!」

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