[御守り]
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そんな時に、友人に誘われて飲みながら話をした。
友人は既に転職先を決めていた。
守り袋をなくして数日後に、死んだ彼女が夢に出てきたそうだ。
彼女は怒ってなくて、ただ「ごめんね、ごめんね」としきりに謝っていたそうだ。
「私には止められない。凄く怒ってる。あなたが出るまで待ってくれないかも
しれないの。あの会社から早く出て。お願いだから。それまでは私が絶対に守るから」
泣きそうな顔で言った彼女の真剣な表情が目覚めてからもハッキリ意識に
残っていて、友人は転職を考えたのだと言う。
「信じてくれないかもしれないけど、俺はお前も辞めた方がいいと思う。
あいつがあんな青い顔したのは昔も見たことない。会社、本当にやばいんだと思う」
真顔で言われて、俺は半信半疑だった。

2日くらいして、今度は泥棒グループの1人に呼ばれた。
ぼそぼそした調子で俺に「助けてくれ」と言ったそいつの顔は、変にやつれていた。
「あの守り袋はやばいって解ってたのに、深く考えずに手をだして後悔してる。
 あの日から嫌な気配がしてる、それが今は会社にずっといる。俺は実行犯だから、
 多分、辞めても追っかけてくる。アイツに謝りたい」
詳しく聞いてみたら、そいつは少し霊感があって、あの日から物凄くヤバい気配を
感じるのだと言う。
「一度だけまともに見た。黒人の中年の女だった。ただの霊じゃないと思った、本当に怖かった。頼むから助けてくれ」
頭を下げられて「とりあえず話してみてやる」と言ったが、良く考えてみると
変だと思った。友人の彼女の実家は、遠いが日本国内だったから。
既に転職してた友人に連絡を取ってそれとなく聞いてみたが、
彼女もその両親も日本人だったとのこと。
しかも考えたら、20代で亡くなった彼女が中年の幽霊になるのも変だ。
同級生だった友人が、まだ中年になってないのに。

あの野郎いやがらせの上乗せか、とアホらしくなって放置してたら、一週間ほどして、
そいつが本気で追い詰められた目で蒼白になって土下座で泣きついてきた。
「頼む、俺は本当に殺される!その上に死んだら地獄に落ちる!!!」
あたりも憚らずにそう言われて、ドン引きしつつも友人に連絡して、事情を話した。

友人からの折り返し連絡を待っていた数日間に、
泥棒グループの別のもう一人が色々とありえないような危険な目にあったこと、
大怪我を押して神社やら寺やら霊能者やらを訪ねた挙句に
「外人の中年の女が見えるね」「黒人の女性です、これは私には祓えません」
などと言われたことを相談野郎からマジ泣きで聞かされた。
その後、友人が連絡をくれ、俺と友人と相談男は3人揃って、
死んだ友人の彼女の父親に面会して話を聞いた。

「娘があなたに渡したお守りですが、中身は、おそらくキリスト教に縁のものでは
ないでしょうか?あれは、娘が幼い頃に、とても仲の良かった近所のおばさんに
貰ったものなんです。
アフリカから来た黒人の女性で、ご主人は日本人でした。
ウチは妻が少しフランス語を話せるので、彼女はときどきウチに来ていました。
彼女は、日本で仏教系の宗教に入っていました。ご主人の一家がその宗教の信者で、
入信しなければ結婚を許さないと言われたらしいです。
その彼女が病気になり、亡くなる前に娘にお守り袋をくれました。娘は私に、
「おばちゃんがね、これを大事にもってテンのお父さんにおいのりして、
マジメにいっしょけんめーにがんばって暮らしなさいって。
そーしたら、テンにいらっさるたったひとりのほんとーの神様が守って
くださいますよ、って言ってたよ。パパ、テンのお父さんって誰?パパとは別?」
と言いました。
……ご夫婦の宗教の教義とは合わない言葉なので、私はその時、彼女は
クリスチャンだったのではないのか、と気がついたんです。
娘にくれたお守りは仏教系の宗教のものでしたが、中に重いものが入っているように
膨らんでいましたし、ひょっとしたら……と言う気がしました。
私は宗教は特にないんです。ただ彼女が娘を本当にとても可愛がってくれて、
娘も彼女を大好きなおばちゃんだと言っていましたので、持たせておきました」

続く