[ねかぁねこ]

突然ですが、僕の人生で唯一怖ろしかった話を
書かせて貰おうと思います。

僕は、どこだかは言わないが、すごく田舎の出身だ。
そして、僕の田舎にも洒落怖でもたびたび出ているような
古い言い伝えのようなものがあった。
それは「ねかぁねこ」と言う妖怪のたぐいの物で
こんな話だ。


昔、ある僧侶が突然目が見えなくなったと言って
騒いだことがあったそうな。
僧侶に何故そうなったか聞いてみると
こう答えた。

ある日、歩いていると、ネコマタのような
大きな猫が一匹、どこからともなく出てきて近寄って来たらしい。
その猫は眼が緑色に光っており、
遠目からでも存在が分かったため
僧侶は勇敢にも捕まえようとした。
身を構えて待っていて、いざ姿が見えるくらいの距離に
近づいてきたと思うと、突然目が見えなくなった、と。
ただ覚えているのは、緑色に光っていた、濁った眼だという。

しかしこの話の怖いところは、
その僧侶の目を見た者は僧侶と同じように
視力を失ってしまったと言うところだ。
つまり、僧侶の見た猫の能力が他人にもうつってしまうらしい。
そのため、目が見えなくなってしまった人は目隠しをさせられ、
区別されて過ごしたそうだ。
人々はその猫を「ねかぁねこ」と呼び、大変怖がったそうな。

まぁなんと言うか、今思い出してみると
子供を怖がらせるにはもってこいの話で、
例に漏れず「夜に外に出るとねかぁねこがでるよ」だとか
「山にはねかぁねこがいるから入るな」だとか言われてきたわけだ。

さて、前置きはこの辺にしておいて、
僕がここで話したかったことに戻ろうと思う。

実は僕には、同じ田舎(と言うか地域?)の出身の
幼なじみがいて(仮にO君とする)、
まぁ男なんだが、非常に仲が良く、大学までずーっと一緒だった。

それは大学2回生の夏休み。
地方から出てきて、貧乏だった僕たちは
暇で暇でしょうがなかったから
宿代がいらない旅行、と言うことで実家の方に帰った。
寂しくも男2人でだが。
車で田舎に帰ってみると、さすがはド田舎、何にも変わっていない。
先の話をよく話してくれた祖母も元気でいたし、
家族も僕たちを歓迎してくれた。
挨拶もそこそこに、遊ぶ場所を探しに外をぶらぶらしていると
O君が「山へ入ろう」と言い出すした。
夏の山だし楽しそうではあったが、僕はねかぁねこの話が
頭によぎり、あまり気が進まなかった。
しかしせっかく田舎に帰ってきて、何にもしないで過ごすのは
もったいないし、結局入ってみることにした。

山に入ってみると、木がいっぱいあったり(当たり前だが)、
虫が居たりでなかなか楽しく、気づかぬうちにどんどん奥へ行った。
中ではまぁ秘密基地を作ったりして遊んでいたんだけど、
いつの間にかすっかり暗くなり、今すぐにでも帰ろうということになった。
本当にあっという間に暗くなったから、とても驚いたのを覚えている。
駆け足で戻ろうとするが、暗さもあり、すぐに道が分からなくなった。
焦ってしまい、この方向だろうという方に走っていると、
O君が「あっ・・・」といい立ち止まった。
何だろうと思いO君が見ている方向を見てみると
そこには緑色の光があった。

ねかぁねこだ・・僕はそう思い大変な恐怖にかられ、
そして、まさか居るとは思ってなかった妖怪を眼にしたことで
放心状態というか、思考停止してしまった。

しばらくすると、O君はとんでもないことを言った。

「俺がとらえる、お前は逃げろ。」

普段から気が強く、しかし正義感に強いO君は
時々人の救うために
大変な無茶をする人だった。

しかしこの無茶な発言には理由がある。
それは先の話に続きがあるからだ。

続く