[質問]
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「震えてるの?」
 四回。
「貴代ちゃん、だいじょうぶ?」
 六回。間を挟んですぐに五回。
「少し落ち着くまで待ちますね」
 三回。
 しばし休憩。その最中にも、数回。
「もう大丈夫?」
 二回。

「さっきの話の続きね。何か揺れ以外の異常があったのですか?」
 二回。
「エンジン音とかが変だったのですか?」
 一回。
「何か爆発音が聞こえたとか?」
 一回。
「窓から何かが見えました?」
 二回。


「それは何か硬そうなものがぶつかったのが見えたということでしょうか」
 一回。
「もしかして、それは墜落の直接の原因じゃないと思いますか?」
 一回。
「窓から見えたものが墜落の原因ですか?」
 一回。
「それは」
 可美村緋那の言葉の最中、何度も続けて。(回数不明)
「貴代ちゃん、だいじょうぶ? 恐いの?」
 連続。

「もう大丈夫だから、怖がらなくてもいいんですよ。ここは病院だから、落ちたりしませんよ」
 七回。
「さあ、落ち着いて」
 五回。
 しばし後、回復。
「貴代ちゃん、だいじょうぶ?」
 二回。
「続けられますか?」
 二回。


「何が見えたんですか?」
 無音。
「ああ、ごめんね。そこから見えたのは、ええと、他の飛行機か何かですか?」
 一回。
「少し質問を変えますね。貴代ちゃんの席は窓際でしたか?」
 二回。

「窓からは飛行機の羽も良く見えたんですか?」
 二回。
「羽に何か異常があったんですか?」
 やや後、二回。
「羽が壊れてた?」
 やや後、二回。
「だから飛行機は落ちたのかしら?」
 しばし待つも、無音。

「羽が壊れて落ちたわけじゃないの?」
 一回。
「羽が壊れて落ちたのね」
 二回。
「なんで壊れたのか、わかりますか?」
 二回。
「何かがぶつかったの?」
 一回。
「勝手に壊れた?」
 一回。


「誰かが壊した?」
 二回。
「誰かが、そこにいたの?」
 二回。
「それで」
 言葉の最中、小刻みに何度も。
 しばし質問の声もなく、音だけが続く。
「いい?」
 一回、一回、一回と、間を挟んで。
 収まるまで待つ。

「その誰かは、羽だけにいたのですか?」
 一回。
「一人じゃなかったんですか」
 二回。
「たくさん?」
 二回。
「いろんな所を壊していた?」
 二回。

「窓は」
 二回。
「それは窓を壊して入ってきたということ?」
 二回。
「その何かは、乗客に酷いことをしたのですか?」
 二回。
「貴代ちゃんの傷も、その何かのせい?」
 何度も。

傷口から唾液が」
 何度も。
「牙が生えてた?」
 何度も。
「ぬめぬめしてた?」
 何度も。
「目が真っ黒で、葡萄みたいに小さくて、びっしりと」
 何度も。
「子供みたいに小さい」
 何度も。
「手が、ううん、足? たくさん生えてて、這い回るみたいに」
 何度も。

「変な声で、何かを擦ったみたいな声で」
 何度も。
「すごく小さな穴や隙間から、ずりずりって出てきて」
 何度も。
「身体に張り付いてきて」
 何度も。
「登ってきて」
 何度も。
「噛みついて」
 電子音は以降、一切鳴らなくなる。
「食べられ」
「痛い」
「助けて」

以上が記録された二人のやり取りである。
後半、何かをこするような音や、ピタピタと吸盤の張り付くような音、
引きずるような音などが入り乱れたが、詳細は不明である。
可美村緋那の声が後半で震えていたことと何らかの関係があるのかも不明。
この記録は桜美赤十字病院女性二名惨殺事件の重要参考物件として
県警に保管されている。
この事件の真相は未だ謎に包まれたままである。


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Part204
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