[霊感の仕組み]
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「そしてもうひとつ…こっちは厄介だ。違う性質の霊力が大量に移植されることで起きる、拒否反応。四六時中強い霊力が垂れ流しになり、悪霊が寄ってくる。
質が異なる霊力と自分の肉体との間にはわずかな隙間ができるから、悪霊がそこに入り込み体を乗っ取ったりもする。
そうすると、犯罪を犯したり挙動不審になったり…精神を病んで、最終的には廃人になる」
僕は、背筋がゾクゾクした。クーラーを消したいくらいに寒かった。でも師匠は構わず続ける。
「でも、性質の移植ミスってのは案外少ない。大抵は移植霊能力者が見分けて止めてくれるからだ。中には、面倒がって止めない奴もいるけどな」
そんな面倒とかいう理由で廃人になる結果になったら、たまったもんじゃない。僕は人間も怖いと思った。
「そういう同じ性質のドナーって、どうやって見付けられるんでしょうね」
「ああ。なんか直感でわかるらしいぞ。あくまで勘だから、間違ってるかもしれねーが」
「直感……」
何て信憑性のない…という言葉を僕は飲み込んだ。師匠はダルそうに言う。
「現に俺も、もう3人、直感で見つけてる」
ダルそうなわりには、サラリとしていた。当然僕は驚く。
「3人も!?まさか…師匠、移植を考えて…?」
「ばーか。そんなことするほど力に飢えちゃいねーよ。金もねーし、第一移植霊能力者にだって会ったことがないしな」
ちょうど師匠がそう言って笑った時、師匠の手で遊ばれていたリモコンのせいで、TVがついた。
その時の番組が、二人とも大好きなバラエティーだったので、霊感の話はそれで終わってしまった。僕自身も、頭の中はTVに侵食されていた。
あの時のことを思い出してみると、やはり師匠は霊感の移植を試みたんじゃないか…と思う。そして、失敗したのだろう。
彼が何故大きな力を得ようとしたのか、誰をドナーにしたのかはわからない。移植霊能力者をどうやって見つけたのかも謎だ。
でも、師匠が初めてあったとき俺をサークルに誘ったのは、俺が同じ霊感性質を持っていると感じたからではないか、と俺は思っている。
まぁ、俺の力は師匠よりも弱いから、同じでも意味はないのだが。
師匠は以前、言っていた。
「一寸先は闇。普通の人間は、普通でいる限り闇の向こうを見ることはできない。だから、人間なんだな」
あの時はさっぱり意味がわからなかったが、今なら少しわかる気がする。師匠は、一か八かの賭けをしてまで、廃人になるというリスクを抱えてまで、闇の向こうを見たかったのかもしれない。
【霊感の仕組み/おわり】