[謎のセダンと中国人]

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それと同時期くらいに若い職人さん(以後A)が入ってきました。
彼は「見えるしそういうのが好き」な人で、本社に行った時は怪談や霊体験などでよく盛り上がっていました。
ある日、本社での残業で遅くなり、また自分はその後営業所まで戻らないといけないため、
いい加減切り上げようと思っても聞き入れてもらえません。
そこでちょっといたずら心というか、閃きが生まれました。
「さっきからさ…あっち、ほら…」
作業場の奥に家具が置いてあるエリアがあるのですが、そこを指差して言いました。
霊がいるというフリをしてみたのです。Aさんは怯えだし、明日にしようと言い始めました。
しめしめと思い片付けていると年配のBさんが「そうか…○○くんも見るのか」と呟きました。
思いがけない発言に驚きましたが、片付けが終わった後にAさんと2人でBさんに聞いてみました。
どうもBさんも2Fで作業中階段を駆け上がってくる音や、クレーンが突然動き出す、強烈な視線を感じる、
といった体験を実はしているとのことでした。
そして

「何人も死んどるからなぁ、あいつもまた戻ってきとんとちゃうか」

そうため息まじりに呟きました。
私が指差した家具の置いてある場所は、元々食い詰めた人や中国人(主に不法滞在)の下宿に使う場所だったらしく、
事故(本当に事故かどうか)や過労から自殺した人が多くいたとのこと。
聞かなければよかった。ほんとヤブヘビでした。

そうか、Kさんはもうこの世にはいないんだろう。
それと同時に「早くここを辞めないと」という気持ちが決意に変わりました。
元々激務で過労が重なっていた上(3徹なんて当たり前)、その状態で現場へ連れていかれても的確に指示が出せる筈もなく
そしてその責任を全て押し付けられる形が続いていたためストレスは溜まっていました。
しかし同僚が1人、2人と辞めていき、もうダメだという状況。
いつ言い出そう、そんなタイミングが掴めない時に

「おっ、マリファナやん。おまえもいるか?」

社長が引き出しから取り出したのは麻薬でした。その前に「も」というのはどういうことでしょうか。
ああ、そういうことですか。
私は逃げ出すように退職しました。


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Part202
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