[佇む女]
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「話を聞くまでもなく、あなたには悪いものが憑いていますね。
見ればわかります。お払いをした方がいいと思いますよ。
悪いことは言いませんから、すぐにお払いを受けなさい。
目を合わせたのが、いけなかったようですね」
Aさんは、どうやら『見える人』であったらしい。
Uは午前中一杯を待たされた後(神社の人にも、いろいろ用事があったらしい)、
午後になってようやく、「お払い」とやらを受けた。
その時はほとんど茫然自失していたので、お払いの代金は? などとは、
考えなかったそうだ。
わけのわからない祝詞を唱えさせられつつお払いを受け、
それが終わってようやく、Uは代金のことに気づいた。
小遣いを取り上げられていたこともあり、財布の中にはわずかな金と定期ぐらいしか
入っていない。
親切にも神主さんも巫女さんも「お金はもともと大して取っていないから」と、
受け取ろうとしなかった。
その後、少しだけ話をした。Aさん曰く、
「神主さんはちゃんとした神職の人だけれど、実際に『見える』わけではありません。
私が見たところ、本当に『その手のこと』で困っている人は珍しい。
ですが、誰でもお払いを受けると、大抵はスッキリして帰ってくれます。
『お払い』を受けたと言う気分の部分が大きいんですよ。
もちろん、神様の助けもあるのですが、気持ちの問題だと言い切ってもいいぐらいです。
それは『本当にその手のことで困っている人』でも同じです。
要は、気持ちの部分が大きいということをちゃんとわかっていればいいんです。
生きている人間に、死んでいる人間がかなうはずがありませんから、
無視するぐらいでちょうどよろしい。
下手に怖がったり、好奇心を抱いたりせず、徹底的に無視しなさい」
最後に、「困ったことがあったら、また来なさい」と、付け加えた。
Uは神社を出て、家に帰った。
母親がいたが、彼を見るなりヒステリックに「こっちへ来なさい!」と叫んだので、
小言を言われるのだと思ったUは、それを無視して部屋に行った。
家の前から『女』は消えていたものの、念のために、部屋の隅にもらった
お札を貼った。
結論を言うと、Uはその後、学校では疎外感を味わい続け、受験にも失敗した。
両親はエリートコースから外れかけている息子にいたく失望したらしく、
最初のうちは怒鳴ったり説教したりしていたが、次第に諦め、無関心に
なって行ったらしい。
この出来事が切欠で、Uは『見える人』になってしまったようだった。
しかし、未だに「怖がらずにいること」ができないと言う。
と言うより、未だに自分が正気なのかどうなのか、半ば疑っているようだった。
この話をしている時、Uは酒に酔っていたため、暗い話をしているという感じではなく、
むしろゲラゲラと自分を自嘲しているような感じだった。
結局、『女』がなんであったのかは、よくわからないらしい。
通りすがりの強い霊かなにかであったらしいが、川辺になぜたたずんでいたのかは、
不明だそうだ。
余談だが、世の中には、「気持ちの持ちよう」ではどうにもならないモノと言うのも
存在するらしい。
幸いにも、Uはまだ実際に遭遇したことはないが、もし遭遇したら、
本格的な修行かなにかをする羽目になるのかもしれない、とこぼしていた。
それはそれで、Uのためにもいいのでは……と思ったが、
Uは「とんでもないっ!」と顔色を変えてドラクエのような台詞を吐いた。