[霧の夜]

これは小学校3〜4年生頃(20年程前)の話です。
最近ふと思い出しましたので書いてみます。
少々長くなりますがご勘弁を。


それは8月のある蒸し暑い夜でした。
母が知人の家に行くと言ったので、特についていく理由はなかったのですが、
その頃はまってた蛙釣りがやりたくてついて行きました。
(蛙釣りとは、水田の稲穂の先を一粒残して他は全て取り除き、
その先を水田にいる蛙の鼻先に近づけてくわえさせ釣り上げる遊び。
うちの小学校では流行っており、俺は小学校でトップクラスの腕だった)

その知人の家に行くのは俺は初めてでしたが、
俺の住んでいた所は四方を水田に囲まれた家が多かったので釣り場所には困りません。
夜に一人で出かけられない臆病者ではありましたが、
初めて行く場所での蛙釣りの誘惑には逆らえず、
知人宅に着くと早速一人で釣り場を探し始めました。

すぐに釣り場を見定めると、周囲の暗闇を少し気にしながらも釣り始めました。
その夜はなぜかいつもよりもよく釣れ、普段の倍のペースで釣れました。
しばらくすると蛙も慣れて釣れなくなるので場所を替えようと移動を始めました。
その知人宅の隣には小さい神社があり、その鳥居前の電柱には電灯がついていて
その明かりに少しホッとし、その明かりの下で再び釣りに夢中になっていました。

ここでも普段よりハイペースで釣り上げ続けていました。
次第に興奮してきた俺は釣り上げた蛙に酷い事を始めました。
それは地面に叩きつけて殺すことでした。
当時の俺は生き物の命の重さなど考えたこともないバカガキだったため、
楽しんで殺っていました。
(余談ですが、この頃より数年後、自分では蛙に呪われたと感じた病気にかかり、
命の危険もあるといわれ、オペ寸前までいきました。
その後何とか治り、それ以後は蚊ですら殺すのをためらうような性格になってしまいました)
しばらくするとやはり釣れなくなり、興奮も収まってきたので再び移動しようと顔を上げたとき
周囲の異変に気付きました。

いつの間にか辺りは深い霧に包まれていました。周囲の電柱には何本かおきに電灯があり、
また小型懐中電灯も持ってきていたので霧の中ということは容易に判断できました。

しかし自分の住んでいる地域では夏に霧が発生することは無く、その見慣れぬ状態と
視界の悪さに忘れていた恐怖感を取り戻し、母の所に戻ろうと知人宅を目指しました。
しかし進めども進めども家が見えてきません。道を間違えたかとも思いましたが
俺は当時方向感覚が鋭く、道や方向を間違うことは一度もありませんでした。
それ以前に隣接した神社の前にいたのだから歩いても1分とかからないはずでした。
その事に気付いた瞬間、周囲に突然何かの気配が感じられました。

姿は見えないがかすかに足音のようなものが聞こえました。
人が歩くような足音ではなく、言葉で表すのは難しいのですが
“ヒタヒタ+ポタポタ”というような音でした。
だんだんとその音は近づいてくるように感じました。
頭の中は恐怖でいっぱいになり、その気配を何とかやり過ごそうと道を外れ
路肩の畦道に立ち止まり、道の方を向きました。
気配はさらに自分との距離を縮め、通り過ぎろと祈ったがその思いは誰にも通じず
自分の前で止まり、こっちを向いたように感じられました。
俺は半泣き状態で一歩後ずさりをした瞬間、足を滑らし田んぼに落ちました。
いや、落ちたはずでした。気がつくと田んぼと灌漑用の溝を仕切るコンクリートの上に
立っていました。左手に田んぼ、右手に畦道の土壁。
      
       __道路
        │
        │2m位の高さ
    ココ  │
___П_│
田んぼ  溝        こんなイメージです。

ただ、蛙釣りをしていた時はそのような作りではなかったのです。

        畦
          ___道路
  _____|高さ40cm位
  田んぼ         

こんな感じで、溝やコンクリは無く高さも低かったはずです。
              
続く