[引っ越し]

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「一応、部屋の方を見に来てくれませんか?」

提案した。
全てが分かる、そんな気がした。
友人の部屋の前、ドアを開けた瞬間、大家の顔。やっぱり。

「あの・・・、私、知り合いの物件があるんですよ。いいですよ、そこ。
で、どうですか? そこに部屋変えすると言うのは・・・?
あああ、もちろん敷金とか要らないです。引越しの費用とか、そういうの全部私が持ちます」

大家の言葉、この部屋には何かある。

「こう言ってる事だし、引越した方がよくない?」
「だね、そうするよ」

これで全て解決だ。
恐らく、きっと、絶対に、この部屋には良くない「もの」がいる。
だからこそ大丈夫。

引越せば大丈夫。

引越し当日。

荷物を積み終わり、大家に挨拶を済ませ、後はアクセルを踏むだけ。
友達を助手席に残し俺は戻った、大家の部屋に。
何かがひっかかっていた、やはり事実を確認したい。そんな思いで呼び鈴を鳴らす。

「あの、すみません」
「ああ、どうも」
「言いにくいんですが、その、前の住人は、亡くなった・・・んですよね?」
「・・・・・・・ああ」

終わろう。もう大丈夫。友人はもう、大丈夫。引越すから。

「本当にビックリしたよ・・・」

続く大家の言葉に愕然とした。

「もう、同じなんだよ。全部、何もかも。家具の配置、一面に広がる水色、血に染まった絨毯。
警察の方に言われて鍵を開けたその後、その光景そのものだった」

まて、ちょっとまって。
一面に? 血に染まった?

「あの娘、言ってたんだよ。最近、変な男に付きまとわれてるって。警察は何もしてくれないって」

頭の中で、友人の行動、言動が駆け巡った。

訳が分からない。いや、分かりたくない。

ストーカー殺人? そんな事件があったのなら普通より大きなニュースになってるはず。近所なら、なおさら知らないはずがない。

「警察の方がね、『これは強盗の仕業です。間違いありません』って言ってたけど、やっぱりあれかねぇ・・・」


・・・・・・・・・・・・。


トラックに乗り、助手席の友人に言った。

「そういやテレビ、余ってるのもう一台あったよ。色は、スカイブルー」

友人は言った。

「・・・あり、が、とう」


これから、ゆっくり、解決していこうね。
大丈夫、なんとかなるよ。なんとかするよ。友達だろ?

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Part199
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