[引っ越し]
業者に頼むと高いから。
友人の引越しを手伝う為、俺は親父にトラックを借りた。
でもね、運ぶ荷物がやけに少ないのよ。
服と布団、歯ブラシやら簡単な雑貨とテレビだけ。ちょっと不思議に思ってたら、
「初めての一人暮らしだから、他はまとめて買いに行くんだ」との事。
ああ、なるほど。で、買いに行くのは当然・・・?
「うん、付き合ってね」
やっぱりね。ただ、その日はもう夕方だったし、なにより引越しで疲れてたから明日、買い物に行くって約束をして別れた。
次の日、一緒に買い物に行ったんだけど、またちょっと不思議に思う事があった。
そいつさ、何て言うか、悪い意味じゃなく「こだわりがない奴」でさ、デザインとかどうでもいいから一番安いのってタイプ。
なのにその日はやたら色とか気にするの、しかも一色「スカイブルー」
結局、冷蔵庫から洗濯機、箪笥からテーブルまで、もう何から何までスカイブルー。唯一、カーペットだけ赤。
アパートに戻って、買った物を部屋に運んでる時に聞いてみた。
「お前さ、この色好きなん?」
「え? いや、そう言う訳じゃないけど・・・、変かな?」
「そんなことないけどさ、なんとなく聞いただけ」
まあ、そこまで不思議に思う事はないかと思い、少し話して俺は帰った。
ある日、その友人から電話が来た。
「空き巣にやられた!!」
「マジでか!? で、何とられたんだ?」
「それがさ、テレビ」
「・・・、それだけ?」
「うん、それだけ」
おかしいと思った、だってそいつの言うテレビは14型のブラウン管。どう考えても値打ちがない。
「で、警察には電話した?」
「いやー、どうしようか迷ってた。テレビだけだし、何か大事にしたくないし・・・」
「でも一応した方がいいんじゃない?」
「うーん、いや、いいや」
「・・・そう、まあテレビなら使ってないのあるから持ってってやるよ」
「マジで!? やった! サンキュー!」
テレビを届けた帰り、アパートのゴミ捨て場で俺は見た。
盗まれたテレビを。
ある日、その友人から電話が来た。
「また空き巣にやられた!!」
「・・・まさか、またテレビだけとか?」
「お、よく分かったね。そう、テレビだけなんだ」
なにか、嫌な感じがした。
「警察には?」
「警察なんか何の役にも立たないよ!!!!!!!!!」
「!? と、とりあえず落ち着けよ」
「ご、ごめん。でもなんか怖いよ、二度も、しかもテレビだけなんて・・・」
「俺、今から行くわ」
「え、うん。分かった」
なにか、すごく嫌な感じがした。
向かう途中、アパートのゴミ捨て場で俺は見た。
俺があげたテレビを。
部屋に入り詳しく話を聞く。
「戸締りは?」
「絶対した、忘れるはずがない!!!」
「そ、そう・・、じゃあ、どうやって入ったんだろうな」
「だよねぇ・・・」
窓は割れていない。帰宅した時、鍵は掛かっていたと言う。荒らされた様子もない。ただ、テレビだけがない。
実際、テレビがどこにいったのかを俺は知っている。
思えば、最初にゴミ捨て場で見た時点でこいつに言うのが普通だ。でも、何故か、言えなかった。
「なぁ、もしかしてさ、前の住人かもよ?」
「ん? どうして?」
「前の住人がスペアキーを持ってたとして、もし、大家さんが鍵を付け替えてなかったら・・・」
「・・・、なるほど」
「まずさ、大家さんに聞きに行かない?」
このアパートの大家は一階に住んでいる。しかもこの部屋のちょうど真下。
呼び鈴を鳴らし、出てきた大家に事情を話した。
「・・・と、こういう訳なんですが」
「うーん、困ったねぇ」
「で、ですね、鍵のほうは交換しましたか?」
「あ、当たり前じゃないですか!!!!! 変えないはずがないでしょう!!」
大家とのやりとりで、俺は何かに近づいた気がした。
続く