[ウサギの墓]

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関原「どうしたらいいんかな」
自分「とりあえず骨返してもらえへん? なんかかわいそうやし」
関原「うん。なっちゃん」

永田さんは半泣きでランドセルからスーパーのビニール袋を出した。
ウサギのものらしき頭蓋骨が入っていた。

自分「たぶん、板の下を掘ったからこんなきれいな骨なんやろうけど(板の下のが一番古かった)、
   新しいお墓掘ってたら虫とかいっぱい出てきたと思うで。もうやめときや」
関原「虫出て来ぃひんくても、お墓は掘ったらあかんやろ」
自分「それはそうやけど」

そうでも言わないと永田さん言うこと聞きそうになかったし。
ともかく、骨を受け取り、もどして土をかぶせた。

関原「○○(自分)さん、ごめんな」
永田「ごめんなさい」
自分「うちは別に……。ウサギに謝った方がいいんちゃうかな」

三人で手を合わせた。永田さんは泣いていた。
自分がたちあがると、二人ともそれにならった。関原さんは不安そうな顔をしていた。

関原「みかちゃん、大丈夫かな」
自分「大丈夫やといいなあ」
関原「ウサギ、こんで帰ってくれるかな。お線香とかあげたほうがいい?」
自分「したいならやったほうがいいんちゃう?」
関原「なっちゃん家近いし、家からお線香とってきてくれへん?」
永田「分かった……」
自分「うち、花摘んでくるわ」
関原「じゃあうち、お水汲んでくる」

永田さんは校門のほうへ、
関原さんは歯磨き用のコップを給食袋からとりだすと、校舎の方へ走っていった。
永田さんの周りにいた子ウサギは、何匹か彼女についていき、何匹かはいつの間にか消えていた。
自分は体育館裏に行き、ねじれ草や露草を集めた。

墓のところに戻ってくると、関原さんは水を備えていた。
自分「関原さん。あのな、永田さんの足元……」
関原「うん、あれでうち、あの骨がウサギのやったんやってわかってん。
   なっちゃんは狐の骨、っていってたけど」

永田さんが子ウサギを連れて戻ってきた。本人につれている自覚はないみたいだったが。
関原さんは永田さんからライターと線香を受け取り、火をつけた。
振って火を消すと、煙が上がる。
関原さんは永田さんに淡々と説明した。
墓石がウサギを返す場所につながっている扉であること、
水は、それを霊にわかるように示し入りやすくしている役割であること、
線香の煙は霊を導くための道で、同時に自分たちを霊と分けてくれるものであること、
花は慰めのためのはなむけであること。
もっと簡単な表現だったが。

三人でもう一度手を合わせた。

目を開けると、子ウサギはいなくなっていた。そのときは。

翌日、みかちゃんは無事に登校してきた。ウサギも見えなかった。
それから関原さんとはなんとなく仲良くなった。

あのあともたまに永田さんのそばにウサギを見ることがあったのだが、
結局言わずじまいだった。

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Part199
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