[不審な客]
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結局、あの男は帰って来なかった。しかしどうでもいい、預かり1万円で部屋未使用なら丸儲けだし
とそこにルームメイクさんが「A君!A君!ちょっと!きて!早く!!」と慌てふためいてやってきた
どうしました?と聞くと「あんなの見たこと無いから黙ってついて来て!」とあのフリー客の部屋に案内された
え?ここに何が?「とにかくA君!風呂場見てよ!」。部屋に入ると酷い臭いに鼻を突かれた
ちょっと嗅いだことのない臭いだった。何が近いかというと食肉センター等で屍骸を焼く臭いのような感じ
ユニットバスの戸を開けると凝縮されたその臭いが一気に開放され顔面に叩きつけられた感じがした
バスタブ前の床には血の付いたトイレロールが無数に捨ててあり、便器の中には理解しがたい物が詰っている
それらをやり過ごしバスタブのカーテンを掴み勢いよく横に引いた・・・目の前には壮絶な光景が見えた
恐らく水深は20〜30cmぐらい。どす黒い、というかそう見えた水に無数の人間の皮膚や瘡蓋が浮いていた
見ただけで吐き気をもよおすのが臭いも手伝ってさらに加速する感じだったけど一度部屋から出て落ち着く事に
「A君、あんな客からは掃除代も含めてふっかけなきゃ駄目だよ」と冗談まじりに言われ思い出した
あ、そういえばSさんはフリー客の自宅電話は繋がったと言ってたな・・・かけてみるしかないな・・・
フロントデスクに戻り女性スタッフに当日の集計をお願いし、Sさんにはあの男の清算処理を頼んだ
早速あの男の自宅に電話をかける「ルルルルルル・・・ルルルル」呼び出し8回程で通信可能になった
おはよう御座います。私CホテルのAと申しますが××○○さんのご自宅で御座いますか?と聞いた、が
「はい、おはよう御座います。○○火葬場です」、、悪い冗談だよな?これ・・・
何度聞きなおしても○○火葬場のようだったので少し経緯を説明して電話を終える事にした

フロント処理がすべて終了した後に同僚を少し咎めた。やはりルールを守らないとロクな事が無い
そこへルームメイクさんが「あれ一体なんだったの?流れないし全体的にゼリーのようだったわ」と質問してきた
憶測ではあるがあの男が関係しているのは事実だと思う、しかしあのグロテスクな溶液がどうやって溜まったか
それだけはもし真実を知っていてもメイクさんに伝えるのは止めることにした。辞められると困る・・・
酷い臭いが留まったままのその部屋は今もお客様を泊めている。

あの液体がなんだったのかわからない。思い出したくもない。
あの男はなんだったのか、今となってはどうでもいい事かもしれない。
本当に奇妙な体験でした。
あの男は3時間程いた部屋の中で一体なにをしていたのか・・・
何故、火葬場の電話番号を自宅連絡先として選んだのか・・・
それよりもあの出血で街中を歩けば目立つのに目撃者もいない・・・
自分はドッキリテレビに騙されたと思う事にしている


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Part197
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