[不審な客]

怖い話では無いかも知れませんが、忘れ去る前に記録するつもりで書きます
これは業務中に起こった変わった体験です。話に出てくる同僚はまだ勤めています

自分は数年前に北陸のCホテルでフロント業務をしていました。

その時の話です
普通のビジネスホテルなので当日深夜のフリー客に関しては基本的に受けたりしません
それに都会では無いので深夜に宿泊を依頼してくる客はトラブルの匂いを隠せないのです

その日は既に午前2時を回っており、仮眠の準備を始めた時の事でした
「ルルルル・・・」電話の甲高い呼び出し音に少々焦りながら受話器を取り応対を始めました
今から一部屋取れますか?の質問に、今夜は満室にしておりますと丁重にお断りしました
一応その日勤務の同僚に、先ほどした電話でのやりとりを手短に説明しておく事にする
「さっきのフリー予約が少し変だった。断ったのでフロント来ても入れちゃ駄目だよ」
同僚が承諾してくれたのでトイレと歯磨きを済ませるべく席を立ち別のフロアへ・・・
用を済ませてフロントデスクに戻ってくると昨日のチェックイン時に覚えの無いお客の顔が、
同僚に聞くと自分がフリー予約を断った客のようだったが同僚は断れずチェックインの最中だった


仕方ないので泊める事にしたが、防犯の事もあるので通常の客よりも注意深く観察する事にした
もう変とかそういうのではなく、あきらかに普通じゃない風体に愕然とした・・・やばいと感じる
先ず、夏なのにコートを着ている。ファッションではない。薄汚れた染みだらけのコート
汚れた帽子を深く身につけ、その脇から洗ってはいないであろうベトベトな髪の毛が見えた
しかしそんなのは普通と思えるほど他に異常な部分がある。

それが圧倒してどうしてもそっちに目がいく
それは皮膚の至る所に”瘡蓋”があるのです。

しかも鮮血と膿に塗れているために余計目立ちました
宿泊表に連絡先を書いている最中も血が溢れ膿が滲み出ており、フロントデスクにも飛び散っている
同僚は目が極端に悪い為、おそらくは見えていないのかもしれませんが普通に応対していました
前受け金として通常よりも多めの1万円を預かり、翌日アウトの際にお釣を返却する事を説明した
逃げて料金が回収不能にならないようビジネスホテルでは当然の対応なのだが慣れていないようだった
鍵を渡して部屋にあがってもらい、何故入れたのかと同僚と揉めたのだがそれも止めて仮眠する事にした

「おおい!A君!起きてくれ!逃げられた!!!」時計を見たらAM5時、、、なんなのよ・・・全く
寝起きで頭が回らないのだが、同僚の慌てぶりが尋常じゃないので説明して貰う事にした
「やっぱりあの客が逃げた」あの客とは深夜のフリー客のようだった。

やっぱりな・・・だから云ったんだ
でもまだAM5時だし、鍵を持って出てるから散歩かもしれない。なにより1万円の預かりがある。
同僚のSさんに何故1万円の預かりがあるのに逃げたと思うんだ?と問いかけると予想外の答えが返ってきた 。
「早朝に自動ドアの音がしたので朝刊だと思い取りに行ったら、点々と血の跡が駅方面へ続いていた」
「ピンときたので深夜のフリー客の部屋に行くとベットも使ってないし鍵も消えていたんだよ」
でも逃げた事にはならないでしょ。同僚にそう促したのですが納得してくれない
「宿泊表の住所はデタラメだった。電話番号は繋がるんだけど誰も出ないんだよ。おかしいよ絶対」
じゃあ最終チェックアウトのAM10時までに帰って来なかったら考えましょうという事で落ち着いて貰った

続く