[ドライブ]
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『なに寝こけてんだよW』
後部座席の俺にYが声をかける。
あまり違和感はなかった。
寧ろ、今までの事の方が夢であるようにさえ感じられた。
『○○君イビキ凄かったよ(笑)』
Iが笑いかけながら腕を組んでくる。
『俺…寝てたのか…?』
携帯を見る。
日付はあの日。
(今までのは夢?)
夢か現かと言う状態で速度計に目を移す。
80…90…95…100。
スピードはグングン上がっていた。
『飛ばしすぎじゃないか?法定速度守れよ』
その一言で一瞬に車内が静まり返り、嫌〜な空気が流れた。
スピードは依然落ちない。
『なぁ、下ろしてくれ』
その瞬間突然右腕に痛みが走った。
『だめだよぉぉぉぉ!!ダメ!ダメ!また一人だけ逃げる気!?』
Iだった。
物凄い力と形相でギリギリと腕を掴んで離さない。
『うわぁあぁぁ!!!』
思わず叫んで突き飛ばすと、ゴロリと足下にIの首が転がった。
『も゛う逃 がサない がラ』
時折ゴボゴボと血を吐き出しながら、転がった頭が語りかける。
気を失いそうになった瞬間、耳をつんざくような悲鳴が前の助手席から響いた。

『ギィヤァァァァァァ!!!』
『痛い痛い痛い痛いぃぃぃぃ!!!木が木がぁぁぁぁ!!』
Yがバックミラーを動かす。
そこには顔が半分崩れ、胸辺りに太い木の枝が突き刺さったAが映っていた。
血飛沫が飛散する。
俺は無我夢中でドアを開けようとした。
だが、鍵は開いてるはずなのにいくらガチャガチャとやってもビクともしない。
『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい』
俺はガチャガチャとドアにしがみつきながら、ただただ謝っていた。
そうこうしている内にコンビニが見えた。
事故現場付近に在ったコンビニだ。

(ヤバい殺される)

『許してくれ!許してくれ!』
『下ろしてくれ!頼むから下ろしてくれぇぇぇぇ!!!』
次の瞬間ガチャリとドアが開き空中に投げ出された。
その時、同時に後ろからYの声がした。
『しっかり見とけよ』
地面に激突する衝撃を覚悟していたが、不思議となんともなく、目を開けると歩道に立っていた。
道路の先に目をやると、車が物凄いスピードで蛇行しながら走りスリップしながら弧を描き街路樹に向かうのが見えた。

その時、俺は見た。
Yの運転する車のタイヤに大量の腕が絡みついていたのと、車が街路樹に激突する間際、そのライトに照らし出された少女を。
少女の左肩からは三本の腕が生え、それぞれ上下に手招きしていた。
少女は街路樹の横に立ち、車はそのまま街路樹に激突した。

気付くと俺は布団に寝ていた。
枕は涙でグッショリ。
敷き布団も大量の汗で濡れていた。
(夢?だったんだろうか?)
ふと右腕に目を移すとお約束のように手形がクッキリと浮かんでいた。

結局彼らは何を伝えたかったんだろうか?
単なる夢なのか?
俺を道連れにしようとしたのか?
事故の真相を語りたかったのか?

俺には何も判らないままだ。


次の話

Part197
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