[ドライブ]

一つ、話そうと思う。

あれは19の頃、友達同士で免許を取り、毎日のようにドライブに興じていた頃の話だ。
その日は、一番最後に免許を取得したY(男)がハンドルを握り、この日参加する筈だったK(男)は都合が悪く来れなくなったので、俺と女友達のA・Iの四人で深夜のドライブを楽しんで居た。
最初はスピードも出さずに普通に運転していたYだが、車が少なくなり見通しの良い直線道路に出ると、徐々にスピードを上げて飛ばし始めた。
『法定速度を守れよ』
と俺が注意しても
『まぁ、空いてるし良いじゃん良いじゃん』
と言いながら尚もグングンスピードを上げていく。
女の子達は意気軒昂。
対照的に俺は完全に意気消沈。
免許取得した初めの内が一番危険な事も理解してたし、そもそも他人の命を預かりながら危険な運転をするYの神経が理解出来なかったからだ。
時速80kmを超え90kmになるともう付き合って居られない。
このまま乗ってても場の空気を盛り下げるだけだし『下ろしてくれ』と切り出した。
『なんでだよ?こんなとこで降りても帰れないだろ?』
等と引き止められたが押し切って下りた。

俺を下ろした車はまたスピードを上げて走り去った。
下りる間際に
『気を付けろよ』
とYが言ったので
『お前がな。慢心は死を招くぞ』
と忠告しといた。
我ながらお袋並みのウザさだ。

そのまま俺は二時間半かけて徒歩で帰宅した。
家に着いた時には、時計の針は既に深夜3時を回っていた。
次の日、電話の音で目が覚めた。
昨晩の疲れからか大分寝過ごしたようで既に昼間だった。
電話に出ると
『○○?大丈夫か?生きてるか?どこに居る?病院?』
と矢継ぎ早に訊かれた。
Kからだった。
話を良く理解出来ないまま
『え?いま家だけど?』
と答えると
『一体昨日は何が在った?』
と訊かれた。
『え?昨日何か在ったか?』
『惚けるなよ。お前らが事故に遭ったって話で持ち切りだぞ』
『事故?俺が?』
『お前らだよ。俺もいま聞いたとこでよく把握出来てないんだが、YもAもIもお前も大学にも来てないし、電話も繋がらないからよく判らないし、一巡してやっとお前が出たとこだ。お前はあいつらと一緒じゃなかったのか?』
『いや、昨日はドライブの途中で別れたがら』

『そうか。兎に角お前は無事なんだな?』
『ああ…大丈夫』
『うん。なら良かった。また後でかけ直す』
そう言ってKは電話を切った。
正直俺は動転していた。
(事故?あいつらの乗った車が?俺を下ろした後に?)
と、また電話がかかってきた。
『もしもし○○君?』
Yのお姉さんからだ。
『はい。どうかしましたか?』
俺はYのお姉さんから事故の一部始終をきいた。
俺を下ろした後Yの車は街路樹にぶつかり大破してしまい、乗っていた三人は全員即死との事だった。
俺は正に九死に一生を得た形だった。
あのまま乗っていたらと思うと寒気がした。

バタバタと葬式を終え一段落した。
その後事故現場に花を供えに行った。
『お前ホント運が良かったな』
『お前もな』
『まぁそうだな(笑)』
『嫌な予感がしたんだよ落ち着かないって言うか』
『虫の知らせみたいなもんかもな』
その晩は、俺のアパートで二人で呑んだ。
夜も更け、Kが帰るとそのまま寝てしまった。

目が覚めると、俺は車に乗って居た。
そこには死んだハズのY・A・Iの姿があった。

続く