[線香の匂い]
おれと嫁は僻地で暮らしてるんだが、嫁のおじいちゃんが危篤だって、嫁の実家から電話が入った。
次の日に嫁の実家近くにあるじいちゃんの家に行ってみると、じいちゃんがほとんど動けない状態でベッドに寝ていた。
以前からガンを患ってたんだが、今回はいよいよヤバいとのこと。
じいちゃんがうっすら目を開けた時に、嫁と一緒に話しかけたんだが、手を握ると結構強い力で握り返してきたのが印象的だった。
数時間ぐらいいたあと、じいちゃんの家から嫁の実家に移動して、そこでその日は泊めてもらうことにした。
嫁の実家にいる、嫁のお父さんとは結構仲がいいので、嫁の実家に行くたび一緒に飲むんだが、その日も例外にもれず、12時ぐらいまで飲んでいた。
トイレに行きたくなったので、席を立ち、数歩歩いたところで、なんだかにおいがした。
直感的に、じいちゃんの家で使っていた蚊取り線香の匂いだと思った。
じいちゃんのいえは、今時珍しく、緑色の渦巻き型の蚊取り線香を使っている。
嫁の実家では、そんな従来型の蚊取り線香を使っていないので、おかしいなと思って、嫁のお母さんに「蚊取り線香つけました?」と聞いてみた。
嫁のお母さんは、きょとんとして「つけてないけど?」と怪訝な顔で答えた。
(おれの勘違いかな・・・酔っぱらってるし)と思い、トイレを済ました後、また嫁のお父さんと飲みなおした。
その後、じいちゃんがちょっと状態が安定したと聞いて、おれと嫁はいったん僻地に帰ることにした。
その時にはもう、蚊取り線香の匂いの事など、おれも嫁も忘れていて、他愛もない話をしながら、帰宅した。
その次の日の朝、おれが起きると、嫁が目を真っ赤に泣き腫らして、じいちゃんが亡くなったことを教えてくれた。
「きのうの12時**分に亡くなったって」とのことだったが、その15分ぐらい前に不思議な体験をしたらしい。
おれは疲れて寝てしまって、嫁だけが起きていたんだが、じいちゃんが死ぬ15分前ぐらいの時間に、せき込むほどの蚊取り線香の匂いがしたということなんだ。
最初、バッグや服にいおいが移ったかと思って、匂いをかいでみたんだが、そんなことはなかった。
そのあとも、数分蚊取り線香のにおいがしていたらしいんだが、突然スッとにおいがしなくなったらしい。