[逆吸血鬼と存在しない町]

 子供のときに見た心霊ドラマのせいで、闇や影を極端に恐れるようになった。
そのせいでクラスメイトには散々からかわれ、よく暗い所に引っ張られ、ついたあだ名が逆吸血鬼というのは・・・・・なんだかなあ。
確かににんにくは大好きで、十字架のペンダントをつけてたし、血見たら倒れそうだった。
でも逆吸血鬼はどうかとおもう、それはあだ名ではないだろうと。
でも、本気で呼ばれてたし、当時はそう疑問に思ってなかったから子供の感性は理解できない。

 小さいときから俺には、放浪癖みたいなものがあった。
暗闇を極端に恐れる前はそのせいで、深夜まで家に帰らず近所の人も巻き込んで捜索隊を結成されたあげく、町外れの神社で保護されて親に死ぬほど引っ叩かれたことがあった。
暗闇を恐れている今は、夜になる前に家に戻るようになっていたから親も心配事が一つへってホッとしてただろう。
だけど放浪癖は健在で、友達と遊ばないときでや休みの日になれば、外に出てあらゆるところを彷徨っていた。
休みの日などは、朝7時におきて、10時までに可能な限り遠くまで行って印をつけてから昼までに帰ってきて、次の学校でよく友達に自慢していた。
最高で3駅先まで行ったことある。歩きである。
自転車を手に入れた時はもっと酷くなり市外まで出たことある。

 ある日、自転車がパンクしたせいで行動範囲が極端に限定されていた時期があった。
すでに家から学校までなら、長年の放浪で家の裏山を除き全て把握していた自分だが習慣は止められないもので、親に断らず外に出た。
で、そこを見なくても絵が書けるくらい把握していた町内をぶらぶらしていた時、ふと違和感がした場所があった。

 それは山と川に挟まれた道、川向こうに向かうための橋の掛かっている所。
山の向こうの暗闇に内心びくびくしながら歩いていて、いつもならそのまま通り過ぎるはずだった。
ところが、その日は意外なものを眼にした。
本当なら山に阻まれてT字路になっているはずの場所が交差点になっていたのだ。
ここは何十回、何百回も通った場所だから交差点ではないはずである。
昨日は確かにT字路だったはず。
だけど子供だった自分はその理由にすぐ得心が行った。
「きっと深夜にうちに業者が工事をしたんだ」
本当なら一日で道路などできる訳がない。

ましてや事前に告知のない道路工事など本来ありえない。
子供ならではの無知故の勘違い。
当時の俺は好奇心の塊だった。
そのせいで心霊番組なんぞを見てしまい結果として闇恐怖症になり反省していた。
はずなのに、勘違いですっかり安心した俺は何の疑問もなくこの道がどこに通じているのか知るために踏み込んだ。

 恐怖がないと知れば、好奇心は際限なく膨れ上がる。
未知のジャングルを探検する冒険家のごとく、アスファルトの坂道を駆け上がる。
いつの間にか、あたりは住宅地になり、なのに人の気配はしなかったが、まったく気にならなかった。
この道はニュータウンに繋がるための道だったのだ。
そしてこれらも最近建てられた家なのだ。
だから人の気配がないのは当たり前だと。
だがこれほどの規模となると山を丸まる一つ削らなければならないほど。
何時そんな工事が行われたのか?
そもそも、道路を作るのと順序が逆になっている。
でも俺はヘリコプターで空輸という勝手な理屈で納得していた。
子供は効率など考えない。
そしてさらに住宅地の向こうへと向かう。
住宅地を横断したときにようやく気づく。
これだけ歩いたら、山向こうの学校についてしまっているのでは?
そして、学校の近くにこんな住宅地あったっけ?
何故なら、目の前には自分が通っている学校があったから。

 「木曜の怪談」という番組で、宇宙人が作った町という話があった。
当時、親に夜寝れなくなるからと注意されながらも、好奇心と恐怖心の狭間で観ていた一番のお気に入りだった番組である。
その話では、主人公の少年たちは町から人が消えたことに気づき、その原因が宇宙人による誘拐であると気づくが、
実は主人公たちのいる町自体が、宇宙人によって作られたコピーであり、主人公たちのほうが実は誘拐されていたという話。
その後、主人公たちは地球のUFOを追跡するライター達の協力で無事脱出する。
俺はそこにいるのではないか?
そう思った瞬間、今まで理屈という檻に閉じ込められていた恐怖と疑問が復活した。
そう、たった一日で町なんてできるわけがない!

続く