[隠し部屋]
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そこで、少しやばいかなと思ったのですがとりあえず中に入ってみました。
押し入れにふすまはなく目が慣れてくると薄暗い部屋の様子が徐々に見
えてきました。6畳程のその部屋は角部屋でしたので窓が二つあるので
すが、そのどちらもベニヤ板でふさがれていました。玄関の扉はそのま
まですが廊下の様子からするとたぶん開かないでしょう。
その時、壁の様子がおかしいのに気がつきました。何か模様があるよう
です。懐中電灯を付けて壁を照らした瞬間私は息をのみました。
模様だと思ったのは壁一面に貼られたお札でした。
扉にも窓をふさいである板にも今顔を出している押し入れの中もお札で
埋め尽くされていました。
あまりの恐怖に身動きがとれずにいると後ろから友人が声をかけてきました。

早く入れと言う友人と入れ替わって中の様子を見せると絶句していました。
とりあえず入ってみることにして友人、私の順で狭い穴をくぐり部屋の中に入りました。
入ってみるとお札は床にも天井にも貼ってありました。白いものと赤いものが入り乱れ
て張ってあります。が、それ以外は別になんということもありませんでした。
友人は引っ越すかどうかを考えていたようです。その時『バーン』とすごい音がしました。
驚いて音のした方を見ましたが何もありません。すると立て続けに同じ音が部屋中から
して振動まで伝わってきました。その音は何か大きなもので壁を叩いている音なのです
が内側から叩いているように感じました。

音と振動はどんどん大きくなって建物全体が揺れているようでした。
立っているのもままならない状態になり二人同時に押し入れの穴へ
飛びつきました。
狭い穴をくぐろうともがいている時、友人が私の足をつかんで引っ張り
ました。ですがこちらも必死でしたのでその手をふりほどくようにして
友人の部屋へ逃げ込んだのです。友人も無事でした。というより私より
先に部屋に入っていました。そして私にこう言いました。
「なんで足ひっぱったんだよ。」
私は驚きましたが慌ててたとか言い訳をしてごまかしました。
外が騒がしかったので出てみるとアパートと近所の住人と思しき人が
ちょっとした人だかりを作っていました。
どうやら私達が経験した音や振動は外でも聞こえたようで大騒ぎにな
っていました。周りの人に調子を合わせて、心配そうに話しているうち
に、もう大丈夫だろうと徐々に解散していきました。
私達も部屋へ戻りおそるおそる羽目板を用意していたベニヤと釘で戻
しました。当初はベニヤで蓋をするつもりでしたが、はずした羽目板の
裏のお札が気になり、ベニヤに羽目板を打ち付けてからそのベニヤで
蓋をしました。

友人は持てるだけの荷物を持って私の部屋へ来て、翌日アパートを
解約し引っ越しも業者に任せ、それ以降近寄りませんでした。もちろ
ん私も同様です。
なぜ20年以上も前の話を思い出したのかというと、実は先日その友
人に会ったのです。
現在はお互いに家庭を持ち離れた土地で暮らしていますが、所用で
こちらへ来るので飲もうと連絡があり15年ぶりに会うことになりました。
学生時代の思い出やバカ話をしている内に例のアパートの話になり、
恐ろしい体験を鮮明に思い出しました。
友人は何年か前にアパートへ行ってみたそうです。そこは三軒茶屋
というところで、もう20年前の面影は全く無く建物どころか道路さえ新
しく造り替えられ場所もはっきり解らなかったようです。
それを聞いてなぜか私はほっとしました。長い年月で薄れていたとは
いえあの恐怖の元凶となった場所が無くなっていたのですから。

その後はいろいろととりとめのない話に終始し、夜半を過ぎたところでお開きにしました。
でもお互いにどうしても尋ねたいことがあったのです。それはあの事件からずっと聞き
たいことでした。私はもちろん自分のことなので解りますが、友人もきっと、いや、絶
対に同じだと思います。あの事件の後友人とは旅行も行きませんでしたし、二人共常
に靴下を履いていましたので確信はありません。いえ常に、どんなに暑い日でも靴下
を履いていたことで逆に確信できたのかもしれません。
友人は私に聞きたかったでしょう。
『お前の足首にも手の形の痣はあるか?』 と

終わり


次の話

Part195
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