[稲垣]

あれは、俺が大学に入って半年ほどった頃だったか
田舎から高校時代の友人が来るってんで、朝から部屋の掃除をしていた
俺の部屋はお世辞にも綺麗とはいえない、普段はここまで酷くはないが
昨夜、大学の友人と飲み明かした事もあり
部屋の汚さといったら、ほとんどゴミ屋敷状態だった
「まったく、ちょっとぐらい片付けて帰れよな〜」
俺は、ブツクサ文句をいいながら、散らかった部屋の掃除をしていた
その時、拾い上げたゴミの下に一枚の写真を見つけた
「あれっ、これって」
それは、高校時代に友人と3人で撮った写真だった
そこに映っていたのは、俺と友人の稲垣、そして、当時俺たちが好きだった井上だった
しかし、なんでこんなとこに、この写真が・・・変だな
その時、「トルルルル・・・」俺の携帯が鳴った

「もしもし」「あっ、オレオレ稲垣だけど、もうすぐ着くと思・・う・・・お・前・・・」
「プツ、プープープー」
稲垣からの電話だったが、電波状態が悪いせいか途中で切れてしまった
すぐかけ直してくるだろうと思い、俺はしばらく携帯が鳴るのを待ったが
いくら待っても携帯は鳴らなかった
「おかしいな〜」、俺は、耐え切れず稲垣の携帯に電話した
「トルルルル・・・トルルルル・・・」稲垣は出ない
ま〜いっか、もうすぐ来んだろう、そう思って携帯を切ろうとした時
「ピンポーン!」インターホンが鳴った

俺がインターホンに出ると、「おお、オレオレ、稲垣だけど」
少し心配気味だった俺は、ほっとしていた
俺は玄関へ走り、ドアを開けようとしたその時、繋がっていた携帯から声がした
「あっ、オレオレ稲垣だけど、もうすぐ着くと思・・う・・・お・前・・・」
「プツ、プープープー」
「えっ・・・」今、ドアの前にいるはずの稲垣からの電話だった
しかも、さっきと同じじゃないか、ドアの向こうから電話したのか、それにしても何か変だ
俺は、ドア越しに稲垣に話しかけた「稲垣、今電話した?」
俺がそう聞くと…返事がない
「おい、稲垣?」
やはり返事がない
俺は、急に怖くなった、ドアの向こうにいるのは本当に稲垣なのか?

今の電話はいったい何だったんだ?もし、こいつが稲垣じゃなかったら?俺の頭は混乱していた
その時、俺の携帯が再び鳴った、俺は震える手で携帯に出た「もしもし、岩本くん、あたし井上だけど、さっき電話あってさ、
稲垣くんが事故で病院に運ばれたって、病院の住所言うね・・・」
そのあとは、ほとんど聞いてなかった
なんで事故った稲垣がここにいるんだよ?
「うぅ〜〜〜」あまりの恐怖に胃のあたりに鉛が落ちたような感覚がした
とにかく、落ち着くんだ、落ち着け〜落ち着け〜俺は自分にそう言い聞かせていた

続く