[お経のMD]

おれがまだ悪戯好きで飽きっぽい厨だった頃の話。
その頃はmp3って言葉すら知らなくてMDが主流だったんだ。

ある日おれ達がいつも通り学校から帰る途中、袈裟着た坊さんが一人でぽつんと立っていた。
よくキリスト教信者が聖書配ったりしてる感じで。
厨坊のおれらは興味津々で坊さんに近づいたんだ。
坊さんの顔はよく覚えてない、どこにでもいる中肉中背の男。
坊さんはおれらが来るとうっすら笑い
「よかったら聞いてみてください」と言い黒いMDを一枚くれた。
他には何もくれずその場を離れてまた歩き出したが、
気になったおれらは早速そのMDを聴いてみた。

中身はただのお経が入ってるだけ。
一人だけなら気味悪がっただろうが仲間がいたため笑いごとで片ついた。

しばらくして仲間の一人が「明日学校にこれ持ってってAのMDの中身に入れ替えようぜ。」と言い出した。
Aはいつも無口で暗くいつも一人でいた。彼の特徴といえば授業中以外ずっとMDを聴いていたところだ。
悪戯したい年頃のおれらはその案にすぐ乗り、
Aがどんなリアクションをとるかみんなで予想したりして楽しんでた。
次の日提案者の友達は体育の着替えの時にAが消えたのを機会にうまくAのMDの中身を入れ替えた。
とはいっても授業中以外はほとんどMDを持ってるAに隙はなく結局その日最後の体育の時間だったのだが。
ちなみにAのMDのなかには何も入ってなかったらしい。
授業が終わりAは早速MDを聴き始めた。
影でニヤニヤするおれたちを知ってか知らずかAは全く反応しなかった。
いつも通りのAであった。
おれ達はある程度覗いていたがいつもと変わらないAにがっかりしてさっさと帰った。

次の日おれらは昨日の事などなかったかのようにいつも通りに学校に来てくだらない話をしていた。
Aもいつもと変わらず席についてMDを聴いていた。
しかし異変が起きた。
Aが授業中になっても全くMDを外そうとしなかったのである。
当然担任が「おいA!いつまで音楽聴いてんだ。早く外せ。」と言う。
Aは全く反応しない。
二三回同じ繰り返しをしていたが、業を煮やした担任はAのもとへ行き無理やりイヤホンを引っ張り外した。

するとAはいきなり立ち上がり焦点の合わない目で急に例のお経を唱え始めた。
本来ニヤニヤするべきのおれ達もそのときぞっとした。
なぜならどう考えても彼の声ではなかった。低い唸り声であった。
人間の声でないのは今でもはっきり覚えてる。
人間と動物を掛け合わせたような声。
イヤホンからの音漏れとかそんなんじゃなかった。
確かにAから聞こえるのだ。
まるでAのなかの何かが声を発してAはただ口を動かしてるみたいであった。
みんな表情は凍り付いていてしばらくしてある女子は泣き出してしまった。
担任もしばらく呆然としていたが女子の泣き声で正気に戻ったのか無理やりAを保健室へ連れてった。
Aがいなくなったあとも耳鳴りみたいにしばらくお経の声が耳に残っていた。

続く