[跳ね上がる死亡率]

アフリカに数年間暮らしたことのある友人から聞いた話。

雨期、雨が降る前に強い風が吹く。
赤茶けた大地から立ち上る土埃で、空が信じられないくらい美しい赤色に染まると、遠くから人々の歓声が聞こえる。
歓声は急速に近付き、あっと思う間に激しい雨が地面を叩きつけ、自らも声を上げて軒下に駆け込む。
アフリカに到着して半年、初めて雨期を経験した頃の話だそうだ。

その頃、街で選挙が行われた。
どこの国でもそうだが、議員になると利権が足元に転がり込んでくる。
貧乏人は金を、金持ちは更なる金を求めて、選挙に立候補する者はとても多い。
それは日本も同じだが、その国の選挙が日本と最も違っていたのは、そこに呪術が介在することだ。
呪術を扱うのは、マラ・ブーと呼ばれるイ○ラ○教の宗教指導者。
マラ・ブーは地区ごとに存在し、日頃から怪我や病気の治療などを行っている。
友人も入国早々に軽い擦り傷を負った際、訳が分からないまま地区のマラ・ブーの下に連れていかれ、治療を受けたそうだ。
もっとも、マラ・ブーの吐き出した唾を傷口に塗られただけらしいが。

そのマラ・ブーが、選挙においては大きな役割を果たすことになる。
何としても当選したい立候補者達はマラ・ブーを訪ね、当選できるように呪術を依頼するのだが、そのためにはある捧げ物が必要となる。
捧げ物とは、子供の頭部。
特に大きな選挙では、何人もの子供の頭が必要になる。
金持ちの立候補者は専門の業者に依頼することで手に入れることができる(仕入先は分からない)が、貧乏人は自らかどわかしてくるしかない。
親が自分の子供を利用するケースもあるそうだ。
全てのマラ・ブーがそういう捧げ物を求める訳ではないが、選挙時期、マラ・ブーがいる貧困地区では子供の死亡率が跳ね上がるそうだ。

友人が、今でも時折夢に見る光景らしいが、雨上がり、ぬかるんだ街路を車で走ると、街のあちこちに子供の死体が転がっている。
粗末な服に包まれた小さな身体には、すべて頭が無く、夢の中の友人は泣きながら街中をさ迷い続ける。
奪われた子供の頭を探して、いつまでもいつまでも泥を跳ね上げて走り続けるそうだ。


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