[池の顔]
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その山で撮った写真は、全部Nに預かってもらった。
その後の生活はテストやら部活やらで忙しかった。
んで、心霊写真の事を既に皆が忘れ去りそうになった時だった。
Nが、昼休みにいつもの俺達のメンバーを呼び、
「ヤバいから他の奴に聞かれたくない」
と言って校庭に出た。
校庭でも人の少ない体育館の裏に行き、
「何だよ?」とかNに言ってたら、
Nはブレザーの内ポケットから一枚の紙を取り出し、俺達に渡した。
それは例の写真だった。
「今更何を?」と思ったが、よく見てみると、
やばかった。
前、完全に横になってた顔が、少し立っているではないか。
空の眼窩からは藻が水面へと垂れ下がり、
あろうことか、顔の浮かんでいる水面の横からは手が出てきていた。
小枝のように細い指。
水で腐敗され、ぬめっている。

そしてそれは、Nに向かって伸びていた。

俺は漠然と、写真の中の物は動かない、と決め付けていたので簡単には受け入れられなかった。
他の奴らも一緒で、「合成か?」とかふざけてひきつった笑いを作っていた。
だがNは、笑いの欠片も見せない。
第一、Nが下手な冗談を言うやつではないと分かっていたのは、
他でもない、俺達だった。
その写真は俺達だけの秘密となった。
そして迎えた春休み。
事態はますます悪化した。
前、指先しか見えていなかった手は手首まで見えるようになり、
顔は完全にこっちを向いていた。
Nはもう真っ青になり、ヒステリックを起こしかけていた。
その霊は、明らかにNに手を伸ばしていた。
何故Nが狙われるのか?
俺達はさっぱり分からなかった。
そして俺は提案した。

「もう一度、この池に行ってみよう。」
無論、すぐに心の準備が出来るものではない。
2、3日、皆で自分で決心すると、その池にもう一度行った。
登山中、口数少なく登っていく。
池につけば、解決する確信はなかった。
だが、解決しなかった場合にどうするか、という話題には誰も触れなかった。
そして問題の池。
前回の皆の行動を再現する。
だが、意識は、今写真では霊のいる地点に向いてしまう。
正直、かなり怖かった。
「そういやN、石投げなかったか?」
Kがふと思い出して言った。
「そういえば・・・。数回ハネて、向こうの岸に・・・。」
俺達は、その石を追って向こう岸に行くことにした。
向こう岸までは、道らしきものはない。
池の周りを、生い茂った草を掻き分けながら進んだ。
そして、普段人の来ることの無い側に来た。
原因は、ここにあった。
そこには、小さなお坊さんがたてられていた。
その前に、お供え物をするらしき場所があって、
そこに、Nの投げた石が丁度入っていた。
俺達は無言で、その石を取り出し、そっと地面に置いた。
そしてその仏像をハンカチで吹いて綺麗にすると、供え物をする場所に花を入れたんだ。
「これで、許して下さい・・・。」
Nがボソリと呟くのを聞き、俺もそう願った。

そしてその下山中。
Nの水筒が見つかった。
長い期間放置されたにも関わらず、綺麗な状態だった。
そして、人目のつきそうな道の真ん中。
名前も間違いなく、Nのものだった。

そして、次の日。
Nが俺達に写真を見せてきた。
どうということはない、
只の、―――そう、心霊写真でもない、
仲の良さそうな中学2年生が映る写真だった。   
Fin

これで終わり。
俺の小学生並の文章につき合ってくれてみんな有り難う。
この写真は、高校で離れ離れになったNが今でも持ってるよ。
今んとこみんな無事だし、もう大丈夫かな(笑


次の話

Part194
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