[嫌な感触]

学生の頃、夏休みある事業所で友人とバイトした。
半月ほどたち、社員の連中と親しくなった頃、草野球に誘われた。
面子が足りないらしく、友人も声をかけられた。
俺も友人も日曜の予定は無く、せっかくだからと参加することにした。

午前中、ある工場に隣接するグランドで、その工員チームと試合することになった。
途中バイト先の女性社員が持ってきたオニギリやサンドイッチをつまみながら、
昼少し過ぎにはゲームが終了した。

社員たちはそれぞれ車に乗り合わせてグランドに来ていたが、俺は友人のバイクに
ニケツ(相乗り)で来ていた。
サウナに行くらしい社員を尻目に、俺と友人はバイクに向った。
さて、帰ろうかという時、友人が素っ頓狂な声を上げた。


バイクのカギがない!
まじかよ!試合中スライディングした時に落としたかもしれん、みたいなことを
言い出し、二人で再びグランドに戻った。

俺はバックネット付近を捜し、友人は炎天下の中、グランドをはいつくばった。
確か工場の近くにバス停あったなと思いながら、諦め気分でシートの下を探して
いると、一本の古い金属バットが目に入った。
多分誰かが忘れていったんだろう。泥まみれのボールも一個ある。
おーい。あったぞー
背後から友人の歓喜の声が聞こえた。

俺は一安心して、なぜかベンチの下のバットとボールを引っ張り出した。
これも忘れてったのかな。

全打席三振していた俺は、その時思いっきりノックしてみたいと感じた。
徒労に付き合わせた友人めがけて、ノックしてみようと思った。

声もかけずに俺はバットを振りぬいた。

ボールをバットが捉えた瞬間、全身に鳥肌が立った。
真夏の炎天下、背筋が怖気だった。
なぜかは分からない。
俺は思わずバットを手放していた。
その様子を見ていた友人が「どうした?」と声をかけたが、俺はその場から
慌てて離れた。
「早く帰ってシャワーが浴びてえ、行こう」
そう言って先に歩いた。

夜布団に入って、昼間のあの気味の悪い感触について思い出した。
あのインパクトは、ボールを叩いたものじゃない。
もっと大きなもの・・・例えば・・・・

その夜、俺は恐ろしい夢を見た。
驚いて目を覚ますと、夢の中の感触が体に残っていた。

そして夢というのが、友人の頭めがけて、力いっぱい、バットを振り下ろす夢だった。


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Part194
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