[ホームの男]

あの日、俺は友人と駅のホームで待ち合わせていた。
東京の中央線、某駅でのこと。
知り合いのバンドが出演するライブがあって、チケットは
友人が持っていた。
どれくらい待ったかな、20分くらいか。
ずーとベンチに座ってたんだが、ちょっと気になることがあった。
ホームの先頭に、サラリーマンらしき中年男がいた。
あれっ?電車乗らないのか。俺と同じで誰かと待ち合わせか?
そんなことをぼんやり考えていると、ふと気味の悪い思いが頭をよぎった。
まさか・・・・飛び込み・・・
ちょっと緊張してきた。考えすぎだと自分に言い聞かせながら、
その中年男から目が離せない。
やっぱり駅員に一声かけた方がいいかな、などと思いつめていると、
電車を降りた友人の姿が目に入った。
俺はその場から逃げるように、友人のいる車輌に走り込んだ。

ライブが終わって、居酒屋で知り合いと飲んで、電車に乗ったのが
11時過ぎ。最寄の駅(待ち合わせした駅)で降りた時、
俺はすっかり夕方のホームでのことを忘れていた。

ほろ酔い気分でホームをノロノロ歩きながら、何気なく後ろを振り返った。
多分頭の隅に男の記憶があったのかもしれない。

嘘だろ。
酔いが醒めた。
ホームの先頭に、夕方見た男がいた。

俺と目が合ったのか。
こちらに向かって手招きした。

俺は走って逃げた。


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Part194
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