[ヒトツサマ]
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うちの母方の実家は九州の田舎にあって地元ではそれなりの名家らしい。
祖父の葬儀で幼い私は母方の実家を訪れた。
田舎の家は曾祖母、祖母、叔父夫婦、従兄が住んでいた。
(母方の男は皆短命で還暦を迎える者は皆無だそうです)
田舎の家って都内に比べ大きいけど母方の実家は特に大きかった。
裏庭から一面田畑が広がり山の方まで視界を遮るものが少ない景色に
言い知れぬ不安感を覚えた記憶がある。
人見知りの激しい私は近所の子供に馴染めず昼間は曾祖母が遊び相手をしてくれた。
(夜は歳の近い従兄が遊んでくれたが昼間は従兄が近所の子供と遊びに行くので)
曾祖母は折り紙を折ったりあやとりを教えてくれたりもしたが
話好きだったのか田舎に馴染めず1人でいる私を気にかけてくれたのか
いろんな話を聞かせてくれた。
曾祖母は訛りがキツく話も戦争の話だとか子供には難しい話だった。
特に記憶に残るのはヒトツサマの話。
家の裏庭には桜の木が一本あってその根本に小さなお社(祠?)があった。
当時の私の半分くらい、大人の膝くらいのお社。
そのお社にヒトツサマが住んでいるのだという。
「神様なの?」と聞くと
「神様じゃない。××××××××」と返してきた。
後半は知らない言葉。
(聞き取り難い言葉。そういう言葉は何度聞いても理解出来ないのでスルーしてた)
何か不思議なものが住んでいる。私の認識はこんな感じだったと思う。

その話を聞いてからお社が気になって仕方なかった。
お社は空っぽ。桜の美しさも手伝ってか怖い印象はない。
近くで遊んでても怒られたりはなくその場に暖かささえ感じていた。
その小ささから弟や妹のような存在をイメージしていたからかもしれない。


その後生きて曾祖母に会うことはなかった。
といってもオカルト的なことでなく老衰だけど。


問題は曾祖母が亡くなった後。
大きくはあったが古い家だったので建て替えることに。
祖母は反対だったらしいが叔父夫婦に押し切られる感じで建て替えは行われた。
そのとき桜は残したがお社は取り壊してしまったそうです。
途端に叔父の会社も叔母のお店もうまくいかなくなり
土地を切り崩して負債の返済にあてたらしい。
不幸は重なるもので叔父の運転する車が事故を起こし
叔父夫婦、祖母が他界してしまう。
従兄1人では維持も大変なので結局家は手放すことに。

ヒトツサマって何だったのだろうと考える。
座敷わらしのような存在だったのではないかと思う。
家の男の寿命を吸って替わりに富を与える。
母方の祖先がそんな契約を交わし代々お社に祀ってきた。
その契約(お社)が一方的に破棄された為怒ってしまったのではないか。

叔父夫婦の葬儀でお社のあった場所に立ったとき子供の頃感じた暖かさはなく
冷たい雰囲気を感じた。
今となっては真実を知る術はないけれど。

(終)


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