[鎧武者と子供]
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その時に私は殺されると本気で思いました。
音が止まって数秒後に体を押さえつけていた力が急に抜け、あれ?と思った
私は恐る恐る目をあけると、私の足元付近に私を押さえていた子供と夢に見
た鎧武者が立っていました。

本来なら声をあげて叫ぶはずなんですが・・・あまりの恐怖で感覚が狂って
いたのか不思議と怖くはなく、よく見ると夢で見た鎧武者とは違い般若の面
は付けていない素顔の人間でした。

何処となく寂しそうな表情だったのは今でもはっきり覚えています。
鎧武者と見つめ合う形の状態が続き、どれくらい時間が経ったのか判りませ
んが子供と鎧武者が腕を動かし一点の方向を指さし私に喋りかけてきました。
ただ、喋りかけてきたといっても声は聞こえず、口が動いているのが判るだ
けでした。
私はただその光景をぼんやり見ているだけでいつの間にか意識がなくなり朝
になっていました。

目を覚ましてUに夜の出来事を伝え、どうしても気になるので鎧武者が指をさ
した隣の廃アパートを一緒に見にいってくれと頼み二人で6部屋ある全ての部
屋を見回ることにしました。
住民がいなくなってから5年以上経過した廃アパートは幸い?と言っていいの
か鍵以前に玄関が無くなっている部屋等もあり全ての部屋に入れました。

各部屋ともにホームレスが宿代わりに使ったり、近所の子供たちが遊び場にし
てたりと、ゴミだらけでした。
特にめぼしい発見もなく、次々と部屋を見回り5つ目の部屋で床に転がって汚
れている置物を発見しました。
ただそれを昨日の出来事と関連付けるにはギャップがあったので一先ず全部
の部屋を回ろうと残っている一部屋を見に行きました。

結局他にめぼしいものは見つからず、とりあえず汚れている置物を綺麗にしよ
うとUの自宅に持ち帰り、汚れを落としました。

持ち帰った置物は七福神の置物で私自身、福の神様が怖がらせるようなことを
するのかな?と思いながらも綺麗に汚れを落としました。
しばらくしてUの両親が帰宅し私とUで事情を伝え、大家さんの許可を取りUの
親の知り合いのお寺に引き取ってもらうことにしました。

遭遇した鎧武者と七福神がイマイチ結びつきがつかず、この時は釈然としませ
んでしたがそれ以後、10数年遭遇することもありませんでした。

私が見た鎧武者と再度遭遇したのは13年後。
Uの家が区画整理で取り壊される約一ヶ月前。
同窓会に出席しUの自宅に泊めてもらった時のことでした。


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