[密告者]
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「やっぱマズかったかな〜?教えるべきじゃなかったよね?」とちょっと不安そうな知子に
「大丈夫だって!その部屋男子5人もいるんだよ!なんともないに決まってるじゃん。」
そう笑って言った。
「・・・じゃあさっ、一緒に見に行ってくれない?」
お願いっと彼女が両手を合わせる。私もその後が気になったのでOKして、部屋を出た。

途中廊下で同じ部屋の子に会い、「もうすぐ夕食だよ」と言われるが、「すぐ行くから。」と答える。
2階に下りると、もう既に皆食堂へ移動しちゃってるみたいであたりは静まっていた。
「もう、食堂の方に行っちゃってるかもね。一応、部屋見に行く?」と聞くと、
彼女がうなずく。
長い廊下を歩いていると、何か音が聞こえてきた。
向かっている方向から聞こえているようだ。ヵンヵンヵンカンカンガンガンガン・・・・。
近づくにつれ音が大きくなっている。
「さっきウチらの部屋で聞こえたヤツと一緒だよ!!」と知子が囁く。
知子が聞いたという音はどうやら男子たちのイタズラじゃなかったようだ。
近くまで行くと、従業員らしき人が4人と黒いワンピースのようなものを着た男が
例の男子たちの部屋2012号室の前に立っている。
そのうちの黒い服の男が何か呟きながらドアを叩き続けている。
私と知子はとりあえず自動販売機の陰に隠れた。

そのうち部屋の中から呻き声が聞こえ始めた。
「がぁ・・・ぐっ・・・うぁああああああ・・・・」
そのとたん黒い服の男がバンとドアを開け勢いよく入っていく
私たちは震えながら動くこともできず陰からずっと見ていた。
黒い服の男と一緒にいた従業員たちも後に続いて部屋に入って行く。と、その時
従業員の一人と目が合う。資料コーナーにいたおじさんだ。
おじさんは知子の方を見てニヤリと笑い部屋に入って行ったように見えた。
廊下に他に誰もいなくなり、私たちはチャンスだとばかりに食堂へ走るその背後に、
あの部屋から
「ぎゃあああああああああ・・・・。」という断末魔の叫び声が聞こえた。

「どうなったんだろう…。」真っ青な顔で知子が言う。
私は「わかんない」とだけ答え、あとは二人とも沈黙する。
ご飯なんて全然ノドを通らなかったし、その夜は全然眠ることができなかった。

次の日の朝食、生徒は食堂に集まって食べることになっていたので
私たちも重たい体を引きづるように食堂へ向かった。
食堂へ着くと後ろから「おはよう」と声をかけられる。
振り向くと、あの男子たちグループだ!!
「いや〜、昨日俺達なんか知らんうちに爆睡してて、遊びに来てとか言ってたのにごめんね。」

私と知子は同時に顔を見合わせる。
なんか知らないけど、元気だ!!全然無事だ!
そう思って、今まで感じた事が無いほどの安堵感を覚えた。
知子も泣きそうな顔をしている。
不思議そうな顔をしてる男子たちの前で私たちは「よかったね〜!!」って抱き合った。
朝食は二人とも昨日の夕食分もこめて、モリモリ食べた。
食べ過ぎて出発時間がやばくなり、部屋に戻って荷物をとりあえず詰め込んで部屋を出る。
ホテルの出口には、従業員一同が並んでお見送りをしてくれてる。
その中で、例の資料コーナーであったおじさんとまた目が合い、無視するのも嫌なので
「お世話になりました」と頭を下げた。
すると、おじさんは隣で歩いていた知子を見て
「またね。」
と言った。

バスに乗り、隣の席の知子が「一応酔い止め飲んでおこう。」と言って、鞄をガサゴソしている。
そしてその手が止まる。
知子の顔がどんどん血の気を失っていく。
「知子?」と聞くと、あわてて鞄を閉じるが、
一瞬、鞄の中の手元に血のついた白い浴衣がちらりと見えた。
なぜか不意にポケットの中に丸め入れた紙屑がガサリとした。
「怖い話でもしようか」
後ろから声がする。振り返ると、無表情な顔で男子がこっちを見ている。
知子は、「具合い悪い」からと先生の隣の席へ移って行った。

修学旅行から帰ってきて、知子は盲腸で入院ということで学校を休んだ。
見舞いに行きたいと彼女の家に電話したが、丁重に断られた。
入院した彼女は、学校に戻ることなく転校したと担任から聞かされた。
現在、彼女が無事であることを祈ってる。
長い話に付き合ってくれた人、アリガト。


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