[ちがう・・]
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ぎょっとして振り向くと、隣のベットの前で、そいつの気配がした。
痛みと恐怖で身動きができなかった。
(死神に違いない)なぜか直感がした。
(隣の男は近いうちに死ぬんだ)
その瞬間、自分でもよく分からないのだが、思い切りカーテンをあけてしまった。
パニックで頭が麻痺していたのかもしれない。
そいつは白い検査用のパジャマを身につけていた。
よぼよぼのじいさんだった。
徘徊老人みたいな感じだ。
こちらが呆然として見つめるなか、ふらふらと部屋を出て行った。
翌朝、排尿とともに石が出た。
午後の診察で、多分退院の運びとなるはずだった。
結局、昨夜の出来事はよく分からないままだった。
老人が深夜の病棟を徘徊すれば、院内で噂になるはずだが、
看護婦や患者からもそんな話は聞けなかった。
ちょっと病室を見て回ろうかと考えたのは、ただの思いつきだ。
それでも、この出来事に自分なりの決着をつけることができたのは、偶然からだろうか。
別の病棟で、あの老人を目撃した。
老人は集中治療室から、ベットごと個室に移されているようだった。
思うに、生命の危機を脱したのだろう。
ほとんど意識はないように見えた。
がりがりに痩せこけていたが、頬だけがピンク色だった。
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