[鉄鋼団地とばらばら]

残念ながらオレはまったくといっていいほど霊感のない人間なんだが
今から10年位前にたった1度経験した霊体験らしき話を書こうと思う。

オレの住んでいるところは東京湾沿いのK区。
16くらいでバイク乗ってるころからお気に入りの場所があったんだ。
そこはU市にある超有名テーマパークの近くにある鉄鋼団地を抜けたところ。
陰気くさい鉄鋼団地から、いきなりだだっ広い堤防が開けるんだよ。
右手に横浜、左手に木更津と180度広がる東京湾の景色が最高で
当時のオレは学校サボっては広い堤防内にバイクを乗り入れ
自足180キロに挑戦したりしてたんだ。

で、20歳になった頃、当時一緒に住んでた彼女を連れて何年ぶりかでそこに行ったんだよ。
彼女は看護婦だったんだけど普通よりちょっと霊感の強い子で病院で怖い体験とかしてた。
オレは最初に書いたとおり霊感まったくなし。

たぶん誕生日とか、記念日だったと思う。二人で外食を終えて
「オレのとっておきの場所に連れてってやるよ」とクルマを堤防に向けて走らせたとき
すでに22時を回っていたと思う。

いつもの鉄鋼団地を抜けてだだっ広い堤防に突き当たる・・・
でも何か違うんだよ。雰囲気が。
明らかに当時オレのお気に入りの場所だった頃とはまったく違う
背筋が寒くなるような陰気で澱んだ空気が流れているようだった。

クルマを停車させると斜め向かい側に潰された乗用車が1台。
タイヤを外され、窓ガラスを割られて、ボコボコになったその車の室内には
まるで人が入っているかのように丸められた毛布が入っている。
オレは霊感とかまったくないんだけど、嫌なものは感じていた。
彼女もいやな顔をしながらブルッと体を震わせたりしている。
オレはわざと陽気な声を出しながら車を降りた。

続く