[鉄鋼団地とばらばら]
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彼女もいやいやオレの後をついてきた。
オレは霊の恐怖とか言うよりもDQNが闇の中に潜んでいていきなり襲ってくるんじゃないかと
そっちのほうが恐怖で周辺をキョロキョロ見回しながら歩いた。

彼女はオレにしがみつくようにして歩いている。
「ほら、すごい景色だろ?」
180度広がった東京湾の夜景を前にオレはわざとらしい陽気な声でそう言って彼女の顔を見た。

そのとき彼女は呆けたように1点を凝視していた。

「女の人がいるよ・・・」
消え入るような声で彼女が言う。顔は恐怖で歪んでいる。

彼女が見ているのは左側100メートル先くらいの堤防の突端。
街灯もなく遠くの船の明かりがぼんやり見えるくらいの真っ暗闇で女が1人で座ってる?

目を凝らして暗闇を見るがオレには何も見えない。
彼女は「白い服を着た長い髪の女の人がしゃがんで海の下を覗き込んでる!」
悲鳴に近い声でそう叫んだ。

そしてその直後大きな声で「頭が痛い」と訴えだしたので
オレは彼女を抱きかかえるようにしてクルマに戻り始めた。
その女はオレには見えなかったけど、クルマに戻る途中でどっかから
飛び出してくるんじゃないかと恐怖でいっぱいだった。
途中のつぶされた乗用車のほうも極力見ないようにしてクルマに飛び乗って急発進させた。
堤防を背中に向けて走り出してもミラーに女の姿が写ってるんじゃないか、
女が走って追っかけてくるんじゃないかとしばらくはルームミラーも見れなかった。

彼女は助手席で黙ったまま苦しそうにうつむいている。

続く