[裏山の廃墟]
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玄関を入ると右側に、二階へ続く階段、
左は長い廊下で、その先にはいくつもふすまがありました。
三和土の上を見ると、くすんだ鏡が自分を写しています。
階段の柱には、古ぼけた振り子時計がかかっており、
驚くことにそれはまだ時を刻んでいました。

時計が秒を刻む音が、なぜかしらどこか遠くから聞こえるような気がしました。

今思えばあれはきっと、何か強い衝動が私を動かしたとしか言い様がありません。
普段とても臆病な自分が、その廃屋の階段を上って行きました。

急な階段を上っている時、心臓の鼓動と振り子時計の秒針の音が
うるさいくらいに、まるで警告のように耳に響いていました。
階段を上り切った左手にふすまがあり、右手から差す日の光に、
ものも言わず、無気味に照らされていました。
すべての光景が黄色がかって、その場所だけが、その瞬間だけが止まっているかのような錯角を覚えました。
開けてはいけないという、先刻からの警告が確実なものとなり、
その意志とは正反対に、私の両手はふすまにかかり、それを開け放ちました。

畳の敷き詰められたその部屋は思いのほか広く、
部屋の奥には、仏壇の前に祭壇らしきものが奉られていました。
誰もいないはずのこの廃屋の祭壇には、果物や菊の花がたくさん供えられていて
その中央に、花に囲まれるように、女性の遺影がありました。
何かに引きずられるように祭壇へ近付いた私が見たその遺影は

見覚えのある高校の制服を着た、うつむき加減の、まぎれもなく私のものでした

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