[合宿]
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俺はよく目を凝らしてS子の方を見てみた。向こう岸までやや距離があり、しかも暗くて視界が
悪かったのではっきり見えなかった。・・・しかし、ドーン!という大きな打ち上げ花火の音と共に
湖が鮮やかに照らし出された時、俺たちはS子を見てぎょっとした。
確かにそれはS子だった。彼女の着ている白のワンピースにははっきりと見覚えがあった。だが。
S子の顔は信じられない程グシャグシャに潰れていた。血だらけで、目や鼻、口の位置が全くつかめない。
それが本当に顔であるかどうかも分からない。まるで顔面だけミンチにされたかのようだった。

「イヤァァァァァ!!!」A美が叫んだ。K恵は涙をこぼしながらただ震えていた。
S子はグシャグシャの顔面をこちらに向けたまま、もはや存在しない目でこちらを凝視していた。
顔はないのに、俺たちの方を見ているという事だけは分かった。
その時俺はあまりの恐怖で、2人を湖に置いたまま森の方に逃げ出してしまった。
全て忘れて、ひたすら全力で走っていた。皆が花火をしている場所まで戻ってくるのに5分と掛からなかったと思う。

その時の俺は完全に気が動転していたので、今でも皆に何を喋っていたのか覚えていない。
少し落ち着いてから、俺はA美とK恵をボート乗り場に置いてきてしまったことを思い出し、それを伝えて
部員全員でボート乗り場まで探しにいくことになった。部員はみな半信半疑で冗談を言う人も多かったが、
顧問の先生だけは険しい表情だった。部員が「本当にS子どうしちゃったんだろう」と先生に訊くと、先生は
「きっと大丈夫だ・・・顔がグシャグシャってのはいくら何でもあり得ないよ、はは」
などと軽く笑いながら言っていたが、顔は引きつっていた。

部員全員で湖の辺りを探したが、結局S子は見つからず、ボート乗り場で倒れているA美と
K恵だけが見つかった。

続く