[エレベーター]

働いてる予備校での話。

私は都内の某大手予備校で働くしがない教務バイト3年目。
なんだかんだ、都内の系列校舎のなかではかなりの古校舎になってしまった。
自習室には地震でヒビが入ったりして、老朽化は否めない。
中でも別館と言われている校舎で起こった話を話そうと思う。

『エレベーターって、怖くないですか?』

バイトの後輩からいきなりの質問だった。
模試の準備をしている間は生徒も来ないし単純作業ばかりなので、
楽しいトーキングタイムになることが多い。

『なんで?』
『だって、うちの校舎のEV暗いし、すぐ蛍光灯暗くなるし・・・』
『そんなのどこの校舎でも一緒じゃん?』
『新館はそんなことないじゃないですか!それよりなにより・・・』
『なにより?』
『乗る人も降りる人もいないのにいつも止まるじゃないですか、講師室前で。』

『・・・・・・』

そうなのだ。
講師室の担当になったことのある女性バイトは一度は通る道。
別館講師室担当。

先生も生徒もほぼ訪れない授業中の時間帯に、
ベルの音と同時にドアが開くのだ。
明らかに誰かのいたずらと思えるのだが、
毎日そんないたずらをする輩がいたら、大学なんぞ落ちてしまえと言いたい。
そして、その誰も乗り降りしないEVが講師室前に止まるのは、 
必ずと言って良いほど、先生も生徒もほぼ訪れない夜間授業中の時間帯なのである。
ラッシュ時や、日の高いうちにそんな現象は起こらない。

『そういえば古株のH先生が、昔発狂した生徒が7階の窓から飛んだって言ってたなぁ』
『先輩なんでそんな話今するんですかぁ〜怖いじゃないですかぁ!!』
『おまえが言い出したくせにww』

こいつはいつも墓穴を掘る傾向にある。
世の中には知らない方が良いことも沢山あるのに。アホなやつめ。

『でも何で飛んだ生徒がEVに関係するんですか』
『なんでも浪人生で、講師室に必ず質問に来る生徒だったらしいぞ』
『あの時間帯に?』
『一番すいてるからな、あの時間帯。昔は先生がよく溜まってたらしいし。』
『じゃあ明らかに目に見えない何かが目の前をスルーしてる可能性大じゃないですか!!』
『あ〜・・・そうだね』
『そうだねじゃないですよ!!この後怖くてEV乗って教務に帰れないじゃないですか!』
『大丈夫だ、むしろこの時間はすでにEVの電源切られてるから、
 うちらは階段と言うアナログな手段で帰らざるを得ないwww
 明日になったら忘れてるって。』
『しかもここ例の7階じゃないですかぁ〜!!!』
『泣くなよめんどくさい・・・EVで降りるわけじゃないんだから大丈夫だよ』
『泣きもしますよ!早く作業終わらせて帰りましょうよ!』
22時を過ぎるとEVの電源は切られてしまう。
節電だとか言っているが、そんな節電は無意味だと今なお思う。
計画性のない職員が担当の場合、模試の前日にバイトの就業時間22時を過ぎることはよくある話だった。

後輩に泣きつかれて、サクサクと仕事を終わらせた私は、
教室の施錠をしてフロアの電気を消した。

見えるのは非常灯の明かりだけ。
他のフロアももう真っ暗。
そんな中、薄暗い階段を下りるのは私だって嫌だ。




『せんぱーい・・・』

『何』

おびえきっている後輩が今にも消えそうな声で袖を引っ張る

続く