[遭遇]
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懐中電灯なんか準備していなかったので、山の間から射す月明かりを頼りに参道を昇り始めた。
月が明るくて風も気持ちよくて、肝試しというより夜の散歩みたいな雰囲気で普通に話をしながら歩く余裕すらあった。
参道のゆるい階段を上りきり、門をくぐって手前の広くなっている所にたどり着いた。
さすがに木がうっそうと茂っていて月の光も射して来ず、さすがにさっきまでの冗談を言い合うほどの余裕は無くなっていた。

ちょっと躊躇いもあったんだけど、とりあえず奥へってことで暗闇に目を凝らして建物を回り込み、奥の木立の方へ入っていこうとした。
予想以上に暗く静かなのとさっきまでの余裕が無くなったせいか、皆一様に無口で雑草や木の枝を踏む音が結構響いているように感じた。
丑の刻参りの釘を打つでも聞こえて来るかと思ったがそんな音は聞こえて来なかった。

意を決して。とか言うと大げさだが、皆顔を見合わせ「行くぞ」って感じで足を踏み入れた。
木立の方へほんの数メートル踏み込んだ時に明らかに自分たちの足音とは違う物音を聞いた。
皆驚いて足を止め、茂みに身をかがめて息を殺し、聞き耳を立てていた。
物音は木立の奥から聞こえてくるようだった。
ガサガサと草や木の枝を踏む音が近づいて来るように感じた。
その音は明らかに人間の歩く足音だった。
じっと暗闇に目を凝らしていると遠くの方で白い物がチラチラと動いているのに気がついた。
チラチラしているのは白い服を着た人が木の間を通っているからで、真っすぐという訳ではないが確実にこちら側へ近づいて来ている。
さすがに皆マズいと感じたのか小声で「誰かいるな・・・」「ヤバくない?・・・逃げようか。」などと囁いていたが、これ以上近づくと気づかれそうに感じたのでとりあえず木立から出ようとした。

茂みを5人組で動くとなるとさすがに気をつけていても音が出る。
白い人影がぴたりと歩くのをやめたので、気づかれたと思い皆一気に茂みから走り出た。
とにかくこんな所で出会うヤツに関わったらロクな事がないと思い、必死で走った。
後ろの木立から「あー!!」とも「わー!!」ともつかない叫び声が聞こえたときは洒落にならないくらい怖かった。
女の子はパニック状態で「キャー!!」と叫んでいたが俺達も気がついたら「うわー!!」と叫び声を上げていた。
とにかく女の子を置いて行けないので慌ててサンダルが脱げて裸足になっているのも構わず、男全員で後ろから急き立てるようにして走った。
走りながら振り返って後ろを確認すると明らかに着物を着た人影がこちらを目指して走って来ていた。
俺達は必死で「こっちに来んな!!」とか「おらぁ!!ぶっ殺すぞ!!」とか口々に意味の無い事を叫びながら走っていた。
参道のゆるい階段で誰も躓かなかったのは奇跡的だった。
とにかく捕まったら洒落にならないと思い、すぐに乗り込めるように車の持ち主に「鍵!車の鍵!!」と叫んでいた。
普段では出せないくらいのスピードで一気に参道を駆け下りて車に飛びついた。
鍵が空くまでの時間が物凄くもどかしかった。鍵が開いた瞬間皆飛び込むようにして車に乗り込んだ。
助手席に回り込んだ俺が最後に参道の方を見たら、参道の中程で車に乗り込んだ俺達を見て諦めたのか着物を着た人は立ち止まってじっとこちらを見ていた。
多分その人影は女の人だったと思う。

車を切り返す時に慌ててガードレールを擦ったが、その間にもこっちに走って来るんじゃないかと気が気じゃなかった。
運転している友人は車をぶつけた事を気に掛ける余裕も無く、相手は徒歩なのに追いかけて来ないかバックミラーで確認しながら必死で逃げ出した。

町中へ出てようやく安心してお互いを見やるとみんなボロボロになっていた。
男の一人が膝を擦りむいていたので恐らくこけていたんだと思う。
女の子も裸足で走っていたので足が血だらけだった。

もしもあの時すぐ近くに車を停めていなかったら。もしもあの時捕まっていたら。と考えると心底ぞっとした。

おわり

以上、長文お目汚しでした。肝試しは幽霊以外にも気をつけて行かないとあかんね。


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