[ぶつぶつ]

数年前 商用で大阪に向った
のぞみの喫煙指定で 二人掛けの窓側座席を選んだ
新横浜で 蟷螂を想起させる様な痩身の男が隣に座った
腐った魚の様な眼
到底かたぎには視えない男
男の携帯が鳴った
携帯を片手にデッキに移動する男 
その会話の内容から 男が非合法の金融関係者と知った
新横浜の次の停車駅は 名古屋である
窓に流れる景色を目で追う
男が戻ってきたようだ
ふと隣を見遣ると
そこには女が座っていた
ぼさぼさの髪 こけた頬 貧相な身形
俯いたまま 女は何やら呟いている
  ぶつぶつ ぶつぶつ
聴こえない
何を呟いているのか
呆然と見詰ているうちに 女が席を立った
女と入れ替る様に男が席に着く
舌打ちをしながら 何やら呟いている
  ぶつぶつ ぶつぶつ
何も聴こえない
  この男 永くないな
そんな気がした


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