[きょうこさん]
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この手の話の展開ではお約束のような感じだが、案の定、車のエンジンはなか
なか始動しなかった。それでもようやくエンジンがかかり、急いで車の向きを
変え、もと来た道をひたすら戻ったそうだ。後ろも振り返らず・・・
話はここで終わればよかったのだが、この時、彼女にとり憑こうとしていた
霊は、そんな生易しいものじゃなかったのだ。
彼女はやって来た一本道をひたすら走らせていたにもかかわらず、道はなぜか
どんどん狭まっていき、ついには車が走行不可能な幅にまでなってしまった。
彼女はその場で立ち往生してしまい、どうしようかと悩んでいると、道の
前方に、来た時にはなかったはずの赤い橋がぼんやり浮かんできたそうだ。
次の刹那、車の横にはあの老婆が立っており「戻れん言うたじゃろう?
あの橋はあんたのために作ったんじゃけえ、渡ってもらわんといけんのんよ」
と、車の窓越しに語りかけてきた。
彼女はもう、覚悟を決め、車を後退させ、逃げれるとこまで逃げようとした。
老婆を無視して車をバックさせていると、今度はその老婆が逆さまで車のフロ
ントガラスにはりつき、「逃がさんけえねえ〜逃がさんけえねえ〜」と
ずっと叫び続けていた。

窓にはりつき叫び続ける老婆を無視して、ひたすら後退を続けたのだが、
今度はまたしても前方に、先程見た赤い橋が見えてきたそうだ。
もうその時は彼女も万策つきて、もうダメだ、と思ったらしい。
彼女は呼び寄せられるように、車を降りてしまい、その橋に向かって無意識に
歩いて行こうとした。
その時!
頭の中に直接語りかけるように、彼女が小さい頃、自分を育ててくれた
お婆さんの声で「○○ちゃん!そっちに行ったらいけんよ!」という声が
聞こえたそうだ。その瞬間、彼女はまたしても瞬間的に気を失ってしまった。

そして、気がつくと車を運転しており、そのまましばらく行くと、見慣れた
アスファルトの道路にようやくたどりついたのだ。
まさに九死に一生というか、なんとかあの世の一丁目ともいうべき場所から
解放された瞬間だった。

ここまで書き進めて、この話を読んでくれた方々は、「それはいかに言っても
ネタ話だろ?」と思うかもしれない。
しかし、紛れもない彼女の実体験なんです。
しかも!彼女の恐怖はこれだけじゃすまなかったんです。
なんというか、そのダムにまつわる因縁めいた後日談というか・・・

その晩、彼女はほうほうの体で帰宅し、何気なく自分の所持品を調べたそうで
す。すると大事なものが無くなっている。彼女はその日の朝まで持っていた
はずの運転免許証を紛失していることに気がつき、その日のうちに、再発行
の手続きをするために、警察署に行ったんだそうだ。
信じられないことがあったのはまさにこの後から。

警察署に行くと、幸運にも紛失した彼女の免許証は落し物として届けられて
いた。彼女は安堵しつつ、引き取りの手続きをしようとした。
ところが、その運転免許の顔写真が彼女の写真ではなく、まったくの別人の
顔に変わっていたというのだ。
当然、警察では偽造とか犯罪の可能性もあるので、彼女の免許証をしばらく
あずかり検査したのだが、これが写真が本人と入れ替わっている事実は別に
して、まったく偽造した形跡がない正真正銘の免許証だったのだ。
後日、警察を通してわかった事実なのだが、その顔写真の主とは、彼女が
恐怖体験をした日にテレビを配達に行ったF家というお宅の娘さんで、名前
は「きょうこ」さんだったのだ!しかもその顔写真の主は、2年前に彼女が
怖い目に会った場所の近辺で交通事故死していたというのだ。

続く