[留学生と神社]
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男性は、わたし達の車が駐車場にあるのに、わたし達の姿が見えないことを
心配して、あたりを探していたそうです。
「まさか、あの深い川に入で水浴びしてるなんて思わなかった」と言われ、
「最初は、くるぶしくらいの深さしかなかった」と答えると、
男性は酷く驚いていました。
さらに、わたし達が石段を登った先で見たものについて話すと、
男性の顔が一気に青くなりました。
そして、わたし達が石段の上へ行ったことについて、怒りました。
老婆達について深く聞こうとすると、
「いるはずがない」「入れないように橋を撤去した」と言い、
男性は更に顔を青くして震えだしました。
続けて彼は、「早く帰ったほうがいい、今日のことは忘れたほうがいい」と言いました。
わたし達が体験したことについて、もっと詳しく聞きたかったのですが、
男性の尋常ではない対応を眼にして、それ以上質問を続けることはできませんでした。
スーザンの具合が悪いので、わたしは車を発進させ、
神社の駐車場を出たのは、お昼を少し過ぎたあたりでした。
住宅街を抜けて、県道へ出て、そのまま自宅へ引き返しました。
スーザンはその後、風邪を引き、高熱を出しました。
数日は食べ物も喉を通らず、なんどか病院で点滴を受けていました。
スーザンは8月に帰国してからも健在で、未だにメールの交換を続けています。
ただ、スーザンは、あの日のことを良く覚えていないようです。
「神社の川でおぼれたのは覚えているんだけど」
それが彼女の唯一の記憶のようです。
わたし一人が白昼夢をみたのでしょうか。
「あの老婆達は何者だったのか?」
「小川の向こう側の小さな神社の招待は何だったのか?」
気になるものの、あそこへもう一度足を運ぶ勇気がありません。
今でもたまに、石段を登る夢をみることがあります。