[留学生と神社]
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境内に、ホウキを持った若い神主さんらしき人を発見しました。
「年末や受験前シーズンならまだしも、この時期に若い女性が来るなんて珍しい」
「それ以上に、海外の方が来るなんて、初めてかもしれない」
と話しかけられました。

その男性に学業成就のお守りを売ってもらいスーザンにプレゼントしました。
「ごゆっくり休んでいってください」といわれたので、
慣れない長時間の運転で疲れたわたしは、自販機で買ったジュースを片手に、
境内のベンチに座って少し休んでいくことにしました。
連休中なのに、わたし達以外に参拝客はいないようで、とても静かです。

自然と日本の伝統建築物が大好きなスーザンは、興奮気味です。
そのとき、スーザンが小川の先を指をさして「あれはなに?」と言いました。

小川の向こう側には、鳥居がありました。
神社の中にまた鳥居があるなんて不思議だな、と思いながら、その先を良く見ると、
山の中へ入っていく石段のようなものが見えました。

スーザンが興味深々なので、間近で見ようと、一緒に鳥居へ近づいていくと、
その鳥居が女性の腰くらいの高さの小さなものであることがわかりました。

スーザンは、その小さな鳥居をくぐりたいと言い出しました。
しかし、小川沿いに境内を端まで歩いて探しても、向こう岸に渡ることが
できそうな橋が全く見当たらないんです。

小川は幅は3メートルほどで、くるぶしあたりまでの深さしかなかったので、
暑いくらいの天気なので、靴と靴下を脱いで、裾をあげて、裸足で小川に入って、
向こう岸にわたることにしました。

向こう岸に渡り、靴を履きなおすと、スーザンは四つんばいになって、
その小さな鳥居ををくぐりました。わたしもジーンズを汚しながら、
四つんばいになって鳥居をくぐり、スーザンと顔をあわせて笑いました。

鳥居の奥の山へ登っていく石段を見上げると、わたしは急に、
その先に何があるのか急に気になりだしました。
スーザンも同じ思いだったらしく、わたし達は、何も言わずに石段を登り始めました。

石段はすぐに終わり、普通の山道になりました。
木で日光がさえぎられ、とても涼しくて良い気分です。
さらに上へ上へと足を進めていくと、また小さな鳥居があり、再び石段が始まりました。
鳥居の横には石碑が建っており、神社の名前が書いてありました。
わたし達が最初に入った大きな神社とは全く違う名前です。

地面が濡れていて、さすがに四つんばいで潜るのは気がひけたので、
鳥居の外側を回り、更に石段を少し昇ると、人影が見えました。
二人組みの子供です。

近づいていくと、二人の子供たちが小さな声で何か歌っているのが解りました、
それと同時に、その歌声から、その二人組みが子供ではなく、小さな老婆であることがわかりました。

わたしたちに気づいているはずなのに、彼女たちは歌をやめる気配は全くありません。
歌は、聴きなれない言葉がちりばめられていて、
「どうかあと10年生かして欲しい」といった内容で「ありがたき」という単語が
何度も出てくる不思議なものでした。

石段がある坂の左手に小さなお堂があり、老婆たちは、そこへ向かって手を合わせています。
老婆達は、この暑さの中、毛糸で編まれた厚手のカーディガンを着ています。
老婆たちの背中越しに、わたしも、そのお堂に向かって手を合わせました。
わたしの動きにつられて、スーザンも手を合わせます。

お堂には、茄子やピーマン、キャベツといった野菜が大量にお供えされています。
その上の段には、大豆のような形で、表面がガタガタの球体がありました。
大きさはバスケットボールよりも、二周り小さいくらいの小さいくらいでしょうか。
どうやら石でできているようで、光沢感があり、木の間から差し込む光に反射しています

続く